(1)他人任せのキャリアプラン
人事機能不在のSES企業において、ITエンジニアのキャリアプランなど誰も考えてくれないし、支援もしてくれない。ITエンジニアが育つか育たないかは、ずばり「運次第」である。
良い案件や、良い常駐先に恵まれればキャリアアップやスキルアップのチャンスを得ることができる。スキルや徳のある人と出会え、新しい技術にチャレンジする機会があり、オフィス環境にも恵まれ、ITエンジニアとしての人権がある働き方ができればラッキーだ。
一方、ハズレを引くと目も当てられない。人権がないかのような環境で、モチベーションも主体性も思考力も奪われ、延々と下働きだけをこなす。下手をすれば、1年、2年、あるいは3年以上を無駄に過ごすことになる。当たりを引くか、ハズレを引くか。その差は大きい。いわゆる「案件ガチャ」「常駐先ガチャ」である。
おのずとキャリアプランは運任せ、他人任せになる。
クラウドの技術を身につけたくとも、常駐先が「オンプレミス」といえば「オンプレミス」の環境に身を置くしかない。それどころか、GitHubやSlackすら使わせてもらえない。進捗管理や課題管理も、Excelどころか常に口頭。技術力どころか、基本的な仕事のマネジメント能力を伸ばす機会もどんどん奪われていく。
(2)技術/知識向上も自助努力
多くのSES企業における技術/知識向上は、基本的に自助努力である。「未経験者歓迎」などとうたっておきながら、ろくな研修も資格取得の支援もない。どんな知識を身につけておくか? どんな技術を学ぶか? すべて「自分(あなた)次第」なのだ。
勉強会のような取り組みを行っているSES企業もある。月に1回設定された「帰社日」がそれだ。その日は、半ば強制的に全社員が自社に集められ(常駐先にそんたくし、定時後であるケースが多い)、社員同士の交流と勉強会が行われる。しかしその勉強会の中身たるや、お偉いさんの講話だったり、プロジェクト事例の紹介だったりする。おおよそITエンジニアとしての知識習得にも技術研さんにも程遠い。そもそも、普段まるで接点のない他の常駐先の人たちの、全く違う案件の話を聞いたところで身が入らない(と少なくとも現場のITエンジニアは思っている)。
(3)技術を生かす機会もない
それでも成長意欲の高いITエンジニアは、学習に積極的である。職場環境やカルチャーのせいにせず、自助努力で新たな知識や技術を吸収する。
しかし次なる壁が立ちはだかる。せっかく習得した知識や技術を実践する機会がないのである。保守的な職場であればあるほど、新しいことをしようとしない。
「顧客や営業に言われたことだけをやればいい」
こう、現場の管理職からくぎを刺される。
さらには「そんなことして何になるの?」「それ、意味があるの?」と冷ややかな言葉を周りの人たちから浴びせられる。やがて、自分だけ頑張っているのがばかばかしくなり、学習意欲が高い人も「学ばない人」「物言わぬおとなしい人」と化していく(あるいは学んでいることを隠すようになる)。
筆者はSES企業に勤務する人でまともにマネジメントができる管理職にお目にかかったことがほとんどない。ベテランとおぼしき管理職でも、驚くほどマネジメント能力がない。部下を悪気なく傷つけたり、スポイルしたりする。まれにできる人もいるが、たまたまセンスがあるか、あるいは前職できちんとしたマネジメントをしてきた人だ。マネジメントできない管理職の問題を挙げる。
(i)部下を育成できない、評価できない
客先常駐型のビジネスモデルでは、客先や風向きによって求められるスキルも経験も異なる。よって、自律的な育成計画を立てにくい側面もあろう。
おのずと育成計画も行き当たりばったりになる。さらには「習うより慣れろ」のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)一辺倒になりがちである。問題はそれだけではない。
他人を育成できない。自助努力だけで、場の要求に応じて技術を身につけてきた人であればあるほど、その過程を言語化したり他人に伝えたりするのが苦手である。技術のプロであることと、育成のプロであることは別物だ。