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技術的盆栽

技術的負債 (technical debt) は、ソフトウェア開発の用語で、手早い解決策を選択することで生じた潜在的な手直しのコストを指す。技術的盆栽 (technical bonsai) は、完成した技術を鑑賞し、また完成度の向上のために手直しを加える趣味を指す。技術的負債とは特に関係はない。定義はいま考えた。

著名な技術的盆栽として TeX が挙げられる。数十年に渡ってメンテナンスが続けられており、きわめて完成度が高く、新たなバグを発見すると高額の賞金が得られることでも知られている。

秀丸エディタもまた技術的盆栽性が高い。古くから存在するソフトウェアだが、今もなお改良が加えられ続けている。秀丸エディタの特徴的な点は、開発者がソフトウェア使用料で生活しているところである。高い価値を持つ技術的盆栽の開発に成功すれば、静かにそれを鑑賞し、心穏やかに細かな改良を加える生活を送ることができる。

技術的盆栽と向き合う暮らしは、多くのコンピュータ技術者が憧れるものであろう。

実際のところ、技術的な進展の速い領域(たとえばエーアイ研究)ではひとつの盆栽にじっくり向き合うのは難しい。新しい品種を試行錯誤しながらギリギリ育て上げ、すぐ出荷してまた別の品種を… という取り組み方になりやすい。これはエキサイティングではあるが、心穏やかな暮らしとはいえない。もう少し資産の蓄積を意識しても良いのではないか、と時々思っている。