大企業の採用をくぐり抜けてデスマーチの会議に毎回出席している人物はほぼ例外なく勤勉であり、その会議を行う組織そのものも「勤勉」と言える。であるが、デスマーチに陥っている時点で「愚か」である。つまりまさに「愚かで勤勉な」知性体の活動こそがデスマーチである。
軍隊の将校で言うなら「あの将校を追い出すか銃殺せよ」で究極的には話が済む。 しかし大企業のデスマーチの中では「個人レベルでは利口かも知れないがそれを合計した会議体としては愚か」という抽象的な組織がうごめいており「誰を追い出すか銃殺すればいいんだ」という答えが出てこない。そこで大真面目に犯人探しをしても全員それなりの道理があって行動しているので個別事象で見れば正しく動いているようにすら見える。
誰が悪いとかどこが悪いとか明示的に指し示して切り離せるものではなく、強いて言うなら悪いものは会議室の空気というか組織全体の漠然とした流れのような物である。だから専務であっても容易に「○○課長を左遷すればうまく行く」などと切り出せたりはしない。
これは究極的には「企業内力学」とでも呼ぶべき未だ科学では解明されていない未知の力の結果である。原子の振る舞いを追う量子力学と、原子が集まった集合での振る舞いを追う量子統計力学が別の領域であるのと同様にして、人類は「大企業の組織が誤った判断をした際に止まらないのは何故か」という命題に対する統計力学は未だ大企業の振る舞いをモデル化しきれる方程式を見つけていない。