"難しい人"、"有害な振る舞い"というのは、大変よろしくないラベリングになる。
こういったときに「言ってることはわからなくないけど、なんか違うな」と違和感を持ち、解決策を探るのがエンジニアである。
■機械的に判断できない基準を用いない
アクションに落とし込めないもの、計測できないもの、機械的に判断できないものは、いわゆる人間力に頼ることになる。
具体的に以下を例に挙げる。(元の記事の一番最初に例示されているもの)
チームの創造的な議論を阻害したり他者の時間を奪う
この短い(1行80文字以下を短いと言う)文章の中に、人間力に頼る判断は何か所あるだろうか?
私は、「創造的」「議論」「阻害」「時間を奪う」の4つは、機械的な判断が難しいと思う。
他者の話に割り込んで自分の意見を差し込む
例えば、以下のパターンを想像してほしい。
- 加湿器を開発している、管理職、デザイナー、営業、ハードウェアエンジニア、組み込みソフトウェアエンジニアの5人の会議
- 管理職と営業が「電気代が低く、超音波式ではない加湿器を開発すべきだ」と会話している
- その会話の途中で組み込みソフトエンジニアが「今はまず超音波式の次の開発の方向性を議論すべきです」と発言した
これは客観的な基準で「他者の話に割り込んで、自分の意見を差し込」んでいる。
機械的に判断できているが、どこの何が問題だろうか?
■■「創造的」「議論」「阻害」とは、誰が判定するのか
先ほどの例だが、こんな前提があったとする。
- 「販売中の超音波式加湿器の、来年度の次版開発キックオフミーティングを30分でやる」会議
- 会議のゴールは、チームに初めて入るデザイナーを含む、全員の顔合わせと、スケジュールの共有、会社の方針の再確認
そうすると、「営業と管理職から見て、大変有意義で創造的な議論に、毎度口をはさむ難しい組み込みエンジニア」というレッテルは正しいだろうか?
- デザイナーは、まだ名前しか知らない管理職と営業が雑談していると思っていた。短い会議だから軌道修正してくれて良かった。
- ハードウェアエンジニアは、営業の方向性は知っておきたいと思っていた。今後の方針に関わるのに途中で割り込まなくても……
- 営業は、会議前に管理職の意向を確認しつつアイスブレイクしていたと思っていた。なんだよ空気読めないな。
- 管理職は、人が会話を終えていないのに口を挟まれてムッとした。社会人としてなっていないな、客先には出さないようにしよう。
各人の判断は、正しいだろうか?
■■チームの大多数がそう思っていれば、そうなのでは?
人間力に頼る判断基準で多数決を用いるのは、エンジニアリングで無く、政治的な解決だと思う。
先ほどの会議の例でいえば、5人中3人が心理的な負担を感じており、不愉快な気分になっている。
チームの60%が「創造的な議論を阻害する有害な振る舞い」だと認定している。
その判断は、正しいだろうか?
この場合、組み込みエンジニアが、難しい人 or 有害な振る舞いをする人として、指導もしく排除されたとする。
それは、心理的安全性をあげ、チームの生産性をあげる行為だろうか?
例えば、今後デザイナーは、営業と管理職が「どのような雑談をどの長さでしていても」発言しなくなるかもしれない。
デザイナーからみて、その会話が創造的な議論か判断ができないからだ。
■有害な振る舞いをする機械に対して、アラートを出したいとき
さて、Web系のバックエンドエンジニアや、クラウドインフラエンジニアだと、アラートを設定したり、対応したいことがある。
「何かまずいことが起こっていることを、何らかの方法で監視して、対応したい」という場合だ。
例えば、待機系サーバーの起動時に妙に時間がかかっている場合、自動対応ができないので、アラートメールを飛ばして手動対応したいと思ったとする。
必要なのは「妙に時間がかかっている」を定義することである。
絶対値(10分)か、相対値(過去5回の起動時間の平均値)かは場合によるし、それが適切かはまた別の話だ。
■■アラートの基準を設定する
チームの創造的な議論を阻害したり他者の時間を奪う
他者の話に割り込んで自分の意見を差し込む
この基準が正しいとして、アクションに起こしたいとする。
「他者の話に割り込まない」というルールは、誤検知を引き起こしやすいアラートだ。
- 営業がこの間行った客先の話を会議の冒頭で10分間にわたり毎回しているときに、誰も口を挟めない
そんなのは常識で考えたらわかるだろう?曖昧な基準は「俺のは有意義な議論の発言だ」の判断を誰かが決めることになる。
大多数がそう思っていれば、という複合的な基準もありうる。その場合、先ほどの例の組み込みエンジニアは、アラート対象になる。
「会議のアジェンダに記載されている内容を3分以内で喋っている場合に、割り込まない」というのは、一つの基準になる。
この場合、営業が「営業概況を冒頭のアジェンダに加えて欲しい」と交渉する余地がある。
また「報告時間が10分は欲しいが、3回以上は一度会話を止めるので、営業概況に対する質問はその時に」という合意もできる。
- 営業概況ではない話をしている営業と管理職にアジェンダに沿うよう促してもルール違反ではない。
- デザイナーもアジェンダに記載してない場合は、口を挟んでも咎められないのだなと学習できる。
- アジェンダにあるのに営業概況の3分間に口を挟めば、それはルール違反だと指摘できる。
そして、顔合わせのキックオフミーティングで、営業概況をやるかは、会社やチームによる。
■とはいえ、そんなルールばかりにできない
明示的なルールで縛るのが正しいかと言えば、そうした方が良い職場もあるだろうが、窮屈な職場も多いだろう。
チームの創造的な議論を阻害したり他者の時間を奪う
他者の話に割り込んで自分の意見を差し込む
という簡単な話に見えることですら、ルールを作って守らせることに違和感を感じる感性も正しいと思う。
チーム(もしくはマネージャー)に求められるのは、こうした「何かチームに嫌な感じがある」ときに軌道修正できることだ。
一例でしかないが、例えば以下の流れでルールを作らずに、解決できることもある。
- 発言そのものにフォーカスする。「次の超音波加湿器の開発の議論を促す」のは会議の意図に沿うか?
- 口を挟むべきではないと思った人が、「それは口を挟んだ形になるので、自分は良くないと思うが、発言の背景は何か」と聞く
- 多少の雑談は良いだろうと合意する or 会議の目的に沿うように促すのは良いとする
■まとめ
コミュニケーションコストを、チームを維持するのに必要なコストとして、きちんと時間を割けるかが重要だと思う。
さらに言えば、「それは有害な振る舞いだと自分は思うが、あなたがそう思わない理由は何か」とコミュニケーションを取れないのであれば、そこに課題があるだろう。
チームやマネージャーがある人を「難しい人だなあ」と思ったとして、2つの解決策が出てこないのなら、その思考には課題があるのではないか。
- 該当する人を指導して振る舞いを変えさせる
- チーム側を指導、ルール作成して、振る舞いを変えさせる
「他者に配慮できる」という曖昧な基準で異物を弾くようなチーム作りは、蛸壷化して致命的な結果を引き起こすことがある。
パワハラ、セクハラ、試験結果改ざんが、「なんでそんなんなるまで誰も言わなかったんだよ」となるのは、
「その構成員が他者に配慮できる人たちで構成されていて、異物を弾き続けた結果」であることが多い。
少なくとも、「エンジニアの”有害な振る舞い”への対処法」には、機会、動機、正当化のいわゆる不正のトライアングルのうち、動機と正当化を満たしている。
いやいや極端だろと思うだろう?
快不快が、正しい正しくないに繋がっていることは社会生活を送っていると極めて多い。
「マネージャーならば」法律や外部の意見も含めてかなり慎重に判断する必要がある。
「エンジニアならば」相手に快適に聞こえるようにコミュニケーションするスキルは磨いておいて損はない。
(あと、機械的に判断可能なルールを守ることが自分を守ることに繋がる。ルール順守か業績なら、常にルールを守れ。記録を軽視するな)