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ADR実践で目指す技術的卓越:『要はバランス』を見極める力を鍛える

要約:

■ 1. ADRの概要と重要性

  • ADR(Architectural Decision Record)とは: ソフトウェアアーキテクチャの重要な決定を記録する文書である。単なる設計書ではなく、なぜその決定がなされたのかという理由に焦点を当てる。
  • ADRの利点:
    • 意思決定の質が向上し、学習効果が高まる。
    • 意思決定の妥当性に自信を持ち、チームメンバーに説明しやすくなる。
    • 開発組織の大規模化や生成AIの進化により、ドキュメントの重要性が高まっている。
  • 生成AIの限界: 現在の生成AIは、コードベースに残らない「意思決定の理由」や「検討された別の選択肢」を創造できないため、ADRの作成には不向きである。

■ 2. ADRに記載すべき内容とアンチパターン

  • 記述すべきタイミング: トレードオフを伴う重要な意思決定が必要な時に書くべきである。
  • 主な目的:
    • 意思決定の経緯や背景を正確に理解すること。
    • 意思決定の妥当性に自信を持つこと。
    • 将来の振り返りに役立てること。
  • 記述すべき項目:
    • 意思決定が必要になったコンテキスト
    • 各選択肢のトレードオフ
    • 意思決定で重視したポイント
  • アンチパターン:
    • 1. 「今必要な理由がわからない」: 意思決定の背景となるコンテキストが不明瞭な場合。
    • 2. 「適切と考える理由がわからない」: 各選択肢のトレードオフを比較せず、決定理由が不明瞭な場合。
    • 3. 「最善の選択肢を生み出そうとする」: 完璧な案を出そうとしてしまい、手が止まる場合。

■ 3. ADR作成の実践的ヒント

  • コンテキストの共有: 執筆前に、なぜこの意思決定が必要かをチームとすり合わせることで、手戻りを防ぐ。
  • 多様な視点での検討:
    • 「多分違うだろう」と思う選択肢も含め、各案に「肩入れして」考えることで、潜在的なコンテキストや見落としに気づける。
    • 生成AIを活用し、各案の強みを聞いてみることも有効である。
  • 批判的思考: 結論を出した後、その決定理由が他の選択肢にも当てはまらないか批判的に考える。
  • 表による可視化: トレードオフ分析の結果を表にまとめることで、一覧性が高まり、理解が促進される。

■ 4. ADR実践から得られる効果

  • 「手癖」からの脱却: 意思決定の理由を言語化する過程で、自身が無意識に行っていた設計に気づく。
  • 過去の意図の理解: 過去に書かれたADRを読むことで、設計の意図を理解し、手戻りを防ぐ。
  • 「バランス」を見極める力: コンテキストを分析し、最適な意思決定を下す力が身につく。これは、生成AI時代に最も重要な「技術的卓越性」につながる力である。