■ 1. NScripter開発の背景と変遷
- 開発の動機: NScripterは、開発者である高橋直樹氏が自身の同人活動でノベルゲームを制作するために、自作のゲームエンジンシリーズ「Scripter」を発展させたものである。
- 簡易な言語仕様: 開発当初から、専門家ではないクリエイターでも扱いやすいように、プログラミング入門の定番であるBASIC言語の文法を参考にしている。これにより、ノベルゲーム制作の敷居を下げた。
- 拡張性の確保: エンジン本体はシンプルに保ちつつ、新しい命令文の追加や、プラグイン(例: 音源や画像形式の対応)による機能拡張を可能にした。
- 時代の要求に応じた進化: 2000年代後半に、ノベルゲームのUIやデータ構造が複雑化。それに伴い、より高度なロジックを扱えるよう、スクリプト言語「Lua」を拡張機能として導入した。
- 後継エンジン「NScripter2」の開発: PCの性能向上と描画速度の限界に対応するため、高速な描画処理が可能な「DirectX」を全面的に採用し、Luaをエンジンの中核に据えた「NScripter2」をゼロから開発した。
■ 2. NScripterの普及と開発者の視点
- 普及の要因:
- リリース当時は、手軽に使えるゲームエンジンが少なかった。
- 『月姫』や『ひぐらしのなく頃に』といった人気作品に採用されたことで、多くのクリエイターに存在が知られた。
- 非商用・同人活動での無料ライセンスモデルがクリエイターの裾野を広げた。
- 開発者のスタンス:
- 自身が開発したツールが文化に与えた影響については、「純粋に使ってもらえたのがありがたい」と謙虚な姿勢である。
- ユーザーが使い方を解説するウェブサイトを運営してくれたことに対し、特に感謝している。
■ 3. 現在の活動と今後の展望
- キャリアの変化: 2018年頃にノベルゲーム市場の縮小を感じ、一般企業のプログラマーに転職した。
- 「NScripter3」の開発:
- 今後も自身がゲーム開発を続けるために、新たな環境を求めて「NScripter3」を開発中である。
- これまでの自作エンジンとは異なり、オープンソースのゲームエンジン「Godot」にLuaのプラグインを組み合わせる設計を考えている。
- 開発のモチベーション: 25年以上続く開発の動機は、一貫して「自分で使うため」である。自分の創作活動が主軸にあり、そのツールを「ついでに」公開するというスタンスを貫いている。
- ジャンルの未来: ノベルゲーム市場は国内で落ち着いたものの、Steamでのインディーゲームのヒット事例があることから、今後も魅力的なジャンルであり続けると期待している。