/note/tech

プロジェクトマネジメント、タスクから見るかリスクから見るか。

要約:

■ 1. プロジェクト管理の一般的な誤解

  • タスク中心のアプローチ: プロジェクト管理は、タスクを洗い出し、スケジュールを綿密に組むことだという誤解がある。
  • 不確実性への対応不足: 実際には、要件変更や予期せぬ問題など、不確実な要素が常に発生する。タスク消化だけを指標にすると、リスクの兆候が見過ごされ、問題が顕在化した際に手遅れになることが多い。
  • 負のスパイラル: チームは過度なプレッシャーに晒され、リスクを報告することをためらうようになる。

■ 2. タスク中心とリスク中心の比較

  • タスク中心アプローチ:
    • 特徴: WBS(作業分解構成図)やガントチャートといった詳細な計画を重視する。進捗は「タスクの完了」で測る。
    • 課題: 予期せぬ事象を「イレギュラー」として扱い、問題が顕在化してから後手に回る傾向がある。計画からの逸脱に抵抗感がある。
  • リスク中心アプローチ:
    • 特徴: プロジェクトの初期段階から、達成を妨げる潜在的なリスク要因を徹底的に洗い出す。
    • 強み: スケジュールは常に最新の情報に基づいて調整され、リスクの状況に応じてタスクの優先順位を柔軟に変更する。進捗は「リスクの顕在化状況」や「新たな問題の発見」によって評価される。
    • 根本的な違い:
      • タスク中心は「どれだけ計画通りに作業を消化したか」に焦点を当てる。
      • リスク中心は「計画を脅かす要因をどれだけ早く発見し対処できたか」に焦点を当てる。

■ 3. リスクの性質と分布

  • 掛け算的に増殖する脅威: プロジェクトにおけるリスクは、単独で作用するのではなく、連鎖的に影響を及ぼし、問題が「掛け算的」に拡大する性質がある。
  • 対数正規分布: プロジェクトの所要期間は、対数正規分布に近い形を示す。これは、発生確率は低いものの、極めて大きな遅延が発生しうることを示唆する。

■ 4. リスク管理の具体的な手法

  • 早期警報システム: リスクを早期に捉え、先手を打つことが重要である。
  • IPAのリスク事象ドライバー: IPA(情報処理推進機構)が公開する「ITプロジェクトのリスク予防への実践的アプローチ」では、問題発生の前触れとなる24種類のリスク事象ドライバーが提示されている。これをチェックリストとして活用し、潜在的なリスクを客観的に洗い出すことができる。
  • 心理的安全性: チームメンバーが、失敗や懸念を安心して発言できる状態。リスクを早期に発見するためには、この心理的安全性が不可欠である。
    • 実践方法: リーダーは、問題提起に対して感謝の意を示し、自らの失敗談を共有するなど、安心して発言できる環境を意識的に構築する。
  • リスク=チャンス: リスクは単に避けるべきものではなく、新たな価値創出や成長の機会となる。リスクを特定し、チームで対処する過程そのものが、チームのスキル向上や結束力強化につながる。

■ 5. 日々の実践へのヒント

  • キックオフでのリスク洗い出し: プロジェクト開始時に、チーム全員でリスクをリストアップし、担当者と対応策を明確にする。
  • 定例ミーティングでの共有: 進捗報告に加え、必ず「リスク・懸念事項」を共有する時間を設ける。
  • リスク対策タスクの計画への組み込み: 優先度の高いリスクには、具体的な対策タスクを立て、通常のタスクと同様に計画に含める。
  • 振り返りによる学習: プロジェクト完了後やトラブル収束後に、リスクへの対応を振り返り、得られた知見を組織のナレッジとして蓄積する。