■ 1. 問題の定義
- マッチョスクラム問題:
- 概要: 「弱さを見せず、困難に打ち勝つ姿勢が価値である」というマッチョイズムがスクラムに過剰に持ち込まれる問題である。
- 具体例:
- 自己管理の強制: 「チームが自律的に解決すべき」「自己管理できないのは未熟だから」といった圧力が生まれる。
- 自己否定的な改善: 振り返り(レトロスペクティブ)が「なぜできなかったか」を指摘し合う場になり、自己否定につながる。
- 過剰なアウトカム志向: 「成果を出せない人は貢献していない」という空気が生まれ、多様性が失われる。
- スクラム教問題:
- 概要: ある原則やルール(スクラムガイドなど)を絶対視する教条主義がスクラムに持ち込まれる問題である。
- 具体例:
- スクラムガイドの絶対化: 「スクラムガイドに書いてあるから正しい」とし、現場の現実を無視した形式主義に陥る。
- アレンジの否定: 現場の状況に合わせたスクラムのアレンジが許されず、「正しいスクラムができない現場が悪い」と見なされる。
- イベントの儀式化: スクラムイベントが形式的なものとなり、本来の目的である対話や改善の場として機能しなくなる。
■ 2. 問題の発生要因
- スクラムそのものの問題:
- 抽象的なガイド: スクラムガイドが意図的に抽象的であるため、日本人の気質もあり「あるべき姿」にとらわれやすくなる。
- 曖昧な認定制度: 認定制度や研修制度が、マッチョ化や宗教化を防ぐ機能を持たない。
- スクラムに関わる人の問題:
- 不満の捌け口: スクラムの理想を、既存の環境への不満の捌け口として利用し、「スクラムを実現できない環境が悪い」と他者を攻撃してしまう。
- 権威性: スクラムマスターやアジャイルコーチといった立場が、無自覚に権威性を振りかざしてしまう。
■ 3. 問題の解決策
- 「スクラムを実践する」:
- 経験主義に立ち返る: 「やってみて、観察し、学び、変えていく」という試行錯誤のプロセスを重視する。現状を悪と決めつけず、まず中立的に受け入れ、「なぜそうなっているのか」を掘り下げ、関係者で共有する。
- 「なぜスクラムなのか」を考える: 「スクラムガイド通りにやればうまくいく」という考えを捨て、現状とのギャップを正しく把握する。
- 「進め方マップ」の活用: プロジェクトの特性(要件定義の進め方、開発の進め方)を可視化する「進め方マップ」を活用し、チームの現状を客観的に認識する。
- 柔軟なアプローチ: 要件が複雑な場合は四半期サイクルなど、現場のジレンマを解決するアプローチを検討する。
■ 4. 結論:「別の強さ」
- スクラムにおいて「強さ」や「正しさ」を求めることは、チームにプレッシャーを与え、柔軟性を失わせる。
- 真の強さとは、「誰か/何かが間違っている」と断定するのではなく、「いま、どうなっているのだろう」「どうすれば、よりよくなるのだろう」と問い続け、対話を続けることである。
- この現実を受け入れ、揺らぎながらも問い続ける姿勢こそが、マッチョスクラム問題やスクラム教問題を解決する「別の強さ」である。