■ 1. 身銭を切るとは何か
- 定義: 失敗した場合に相応のペナルティを支払う覚悟を持つことである。
- 具体的内容: 給料やクビといった金銭的、物質的損失ではなく、自身の評判、プライド、チームからの信頼、時間、精神的なストレスなど、目に見えない資産を賭けて仕事に臨むことである。
- プロフェッショナリズム: プロフェッショナルとは、仕事の結果に責任を持ち、「言われた通りに作っただけ」という言い訳を使わない姿勢のことである。
■ 2. エンジニアが身銭を切らない理由
- 「心理的安全性」の誤解: 「率直な意見を言える環境」が「失敗しても責められない環境」と誤って解釈されている。これにより、失敗を恐れず、責任を回避する文化が生まれている。
- キャリアの流動性: 転職市場が活発なため、プロジェクトの失敗や技術的負債を「次の会社に移ればリセットできる」という考え方が広まっている。
- 「技術的に正しい」という隠れ蓑: ユーザーにとって価値がない結果でも、「技術的には正しい」という言葉を盾にして責任を回避する傾向がある。
- 集団責任という幻想: 「チーム全体で責任を持つ」という理念が、「誰も責任を持たない」ための言い訳として変質している。
■ 3. 身銭を切ることの代償
- リスクの非対称性: 成功すれば評価されるが、失敗しても大きなペナルティがない。エンジニアにとっては「学習機会」でも、ユーザーにとっては「不便」でしかない。
- 同じ失敗の繰り返し: 痛みを伴わない失敗は他人事として処理され、そこから学びが得られない。
■ 4. 身銭を切ることのメリット
- 意思決定の質向上: 自分が責任を負う覚悟があれば、安易な技術選定や適当な設計は避けるようになる。
- 学習曲線の急上昇: 失敗から来る痛みは、深い学びにつながり、知識が実践で使えるものになる。
- プロフェッショナルとしての承認: 結果に責任を持つことで、単なる「作業者」から真の「エンジニア」として認められる。
- 本物の自信: 身銭を切って成功・失敗を経験することで、揺るぎない自信が身につく。
■ 5. 組織における身銭の力
- 少数決原理: 組織の重要な意思決定は、最も失うものが大きい人、つまり最も身銭を切っている人の意見が採用される原理に基づいている。
- 信頼の獲得: 日頃から責任を負う姿勢を見せることで信頼を獲得し、その発言に重みが生まれる。身銭を切る個人の必死さが、組織全体の方向性を決定する。