■ 1. 「完璧を目指さない」アーキテクチャの必要性
- Lambda利用の現実的な課題: 初期は快適だが、データ量増加による15分制限の壁や、構成変更時のYAMLの複雑化(記述量爆発)、型安全性なしによる実行時エラー多発といった問題が生じる。
- 構成変更の困難さ: 実行時間超過への対応策として「Lambda分割」や「Fargate移行」があるが、いずれも複雑化や大幅な構成変更が必要となり困難である。
- 進化の鍵: 完璧な初期設計は存在せず、要件変化に柔軟に対応できる仕組み、すなわち構成変更の容易さと将来の拡張性がアーキテクチャの進化には重要である。
- 進化的アーキテクチャの定義: ビジネス要件や技術の進歩といった絶え間ない変化に適応できるように設計された柔軟性の高いソフトウェアアーキテクチャであり、漸進的な変更、適応度関数(客観指標)、多重な次元(性能、セキュリティなど)の統合管理が特徴である。
■ 2. CDKによる実践的進化パターン
- パターン1:Lambda → Fargate 移行:
- 課題: 15分実行時間制限、スケーラビリティの限界がある。
- 解決アプローチ: コンテナ化による時間制限の解除とECS Fargateによる自動スケーリングで解決する。
- CDKの優位性: SAMでの移行時の記述量増加が6.3倍なのに対し、CDKでは2.1倍に抑制され、移行時の複雑度を約1/3に抑える。
- パターン2:EventBridge+Lambda → Step Functions 移行:
- 課題: トレーサビリティ不足、分散イベント処理の複雑化、障害時の影響範囲特定困難がある。
- 解決アプローチ: Step Functionsによる一気通貫ワークフローへの統合と実行状況の可視化、エラーハンドリングの集約により、障害調査時間を大幅に短縮する。
- CDKの優位性: 既存の
grant()
メソッドがそのまま使え、型安全性によりコンパイル時にエラーを検出でき、複数のLambda関数の連携を一つのファイルで管理しやすい。- パターン3:DynamoDB → Aurora 移行:
- 課題: 複雑なクエリ要件の増大、NoSQLの限界がある。
- 解決アプローチ: Auroraへの切り替えとSQLによる柔軟なクエリ実行で対応し、CloudWatch Syntheticsによる性能監視(適応度関数)を強化する。
- CDKの優位性:
synthetics.Canary()
で継続的な監視をコード化するなど適応度関数の実装が容易である。また、cdk diff
により変更点を確認しながら漸進的な変更を実現し、セキュリティ要件も1行の変更でIAMベースからVPCベースへ移行できる。■ 3. 進化的アーキテクチャの実現とCDKの価値
- SAM vs CDKの比較:
- 構成変更時の記述量: SAMは爆発的に増加するが、CDKは管理可能である。
- 変更影響の可視化: SAMは困難だが、CDKは
cdk diff
で確認可能である。- 権限・接続管理: SAMは複雑なYAMLが必要だが、CDKは
grant
/connections
で直感的である。- 結果: 長期的な開発・保守性においてCDKが優位であり、進化的アーキテクチャの実現を可能にする。
- CDKの総合的な価値:
- 構成変更時の記述量を大幅に削減し(SAMの1/3の複雑度)、変更影響の事前確認が可能である。
- 直感的な権限・接続管理を実現し、段階的移行を支援する。
- 結論: アーキテクチャは「完璧な初期設計」を目指すのではなく、「育てるもの」である。サーバーレス環境において、CDKを活用することで、要件変化に柔軟に対応できる段階的な改善アプローチでアーキテクチャを進化させる。