■ 1. Local Peer-to-Peer APIの概要
- 基本定義: Local Peer-to-Peer API(以降LP2P)は、「サーバーを介さずに現代のセキュリティ要件を満たしつつ、Webにおけるローカル通信を安全に実現すること」を目標としており、P2Pはサーバーを経由せず端末同士で直接通信を行える技術である
- 策定状況: 提案と仕様策定はIntel社のメンバーが中心に行っており、W3C勧告プロセスの「作業草案(Working Draft)」相当でまだ利用できない状況である
- 技術的仕組み: Open Screen Network Protocol上にAPIを実装する方法について規定し、ピア間の相互TLS証明書を確立して証明書をトラストアンカーとして利用しピア同士のローカル通信を行う
- 主要機能: ローカルデバイス間通信でHTTPSを使えるように(Local HTTPS)し、WebTransportやDataChannel等を用いた安全な相互通信を実現する
■ 2. 期待されるユースケース
- クロスデバイス間の通信: PCで開いたFigmaやGoogle Drive等でスマホのファイルを開く、インターネットを経由せずに様々なデバイス間でファイルを共有、近くにあるNASやIoT機器の制御をコンパニオンアプリ無しで実現でき、他デバイスへの「プル」ができる
- 人道支援活動: インターネットが使えない現場でも情報共有やコミュニケーションを可能にし、予め大きなファイルを1ユーザが取得し現地で各ユーザが取得でき、例えばローカルHTTPSで機能するPWAアプリを現地配信可能になる
- PWAの可能性: PWAとの組み合わせが実現すると強力になる可能性があり、P2Pが発展するとeCDNのようなUXの良い仕組みが実現しやすくなる
■ 3. 類似技術との差別化
- クラウド技術との違い: HTTP、WebSocket、WebTransport等はインターネット経由でありサービス依存である
- WebRTCとの違い: WebRTCはピア同士を繋ぐためのシグナリングが必要であり原則サーバーが必要である
- Web Share APIとの違い: Web Share APIはプッシュベースのみ対応しており、ピア上のデータをプルできない
■ 4. 現在の状況と今後
- 標準化プロセス: Web標準化までのプロセスはW3C勧告プロセスを完了させる必要があり、作業草案(Working Draft)、勧告候補(Candidate Recommendation)、勧告案(Proposed Recommendation)、W3C勧告(Recommendation)という手順を経る
- 現在の進捗: 2025年5月時点で作業草案(Draft Community Group Report)の段階であり、提案からおよそ2年ほど経過し現在も仕様策定に関する議論がIssueで行われている
- 周辺技術の議論: LP2P APIと並行し、Local HTTPSの仕様や問題点の解決方法についてW3Cが主催する技術者会議「TPAC2024」で提案・議論された
■ 5. まとめ
- 核心的価値: LP2Pはサーバーという最大の依存関係を廃止できる激アツな仕様かもしれず、ローカルデバイス間でデータをプル/プッシュできる
- 現状認識: 現在は作業草案の段階(Web標準化までの第1段階)であり、Local HTTPS等周辺技術も含めて仕様策定中である