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価値が先、チームは後 ~ カルチャーとカルトの分水嶺

要約:

■ 1. 価値優先の原則

  • 基本方針: 間違いなく価値が先であり、チームは後である
  • 危険性: 外への価値創出から目を背け、身近で変化を起こしやすい目先のチームだけで自己完結することは簡単だが危険
  • エコーチェンバーの罠: 内集団贔屓のバイアスを高めると簡単に停滞し、澱み、腐敗し、カルト化する
  • 価値創出サイクル: このような状態では価値創出のサイクルが途絶えてしまう

■ 2. 価値の定義と企業の目的

  • 価値の定義: 価値とは誰かにとっての幸福である
  • 企業の目的: 企業の目的は利潤追求ではなく価値創出である
  • 合理性の位置づけ: 価値創出を継続するために合理性が必要であり、資本主義経済では経済合理性が求められる
  • 利潤の重要性: お金がないと活動の継続や価値創出の拡大がしづらいため利潤は重要だが、価値が先にあり利潤が後にある
  • 時価総額の限界: 利益の多寡や時価総額が企業の優劣を絶対的に決めるわけではない

■ 3. 価値のコンテキスト依存性

  • 主観性: 価値はコンテキストによって変化する曖昧なもの
  • 具体例: テスラよりも任天堂やシマノの方が価値が高いと感じる人もいる
  • 対価の関係: 価値の対価としてお金が発生することもあるが、価値そのものはお金ではない
  • 幸福との関係: お金を払うときは対象に何らかの価値を感じ、そこから何らかのリターン、幸福を得る

■ 4. 企業理念とミッション・ビジョン

  • 価値の言語化: 企業は誰をどのように幸せにしたいのかを考え定める必要がある
  • ミッション・ビジョン: それを言語化したものが企業理念、ミッション・ビジョンと呼ばれるもの
  • 三方良しの理想: 世の中、顧客、社員全員を幸せにすることが理想のスキーム
  • 重みづけ: それぞれをどのくらいの重みづけで、どういう形で幸せにしたいかが企業理念となる
  • 従業員の幸福: 自分達が幸せになることも当然考えて良い

■ 5. 報酬と評価の複雑性

  • 報酬の位置づけ: 従業員に対する報酬は価値創出に対する貢献度、より正確には貢献に対する期待値に対する投資として支払われる
  • 評価の困難さ: それぞれの従業員が創出している価値がどれくらいで、どれくらい金銭換算でき、いくら支払うかを評価するのはとても難しい
  • 恣意性: 企業の価値観が問われるところであり、言ってしまえば恣意的である

■ 6. プロフィットセンター・コストセンターの問題

  • 分類の恣意性: どの物差しを使うか、どちらに分類するかの解釈は極めて恣意的
  • エンジニアの立場変化: ソフトウェアエンジニア部門は以前は間接部門でコストセンターと見なされるケースもあったが、現在は直接部門でプロフィットセンターと見なされる局面が増えた
  • 構造的幻想: エンジニアが直接価値を生み出しているという実感は構造からの幻想である
  • コンテキスト依存: それは永続的で普遍的なものでは決してなくコンテキストに依存する

■ 7. 花形の相対性と企業の個性

  • 花形の多様性: 花形は企業によって変わり、エンジニア、トレーダー、営業、企画、デザイナー、法務、財務など様々
  • ビジネスモデルとの関係: 企業のビジネスモデルと価値観によって変わる
  • 会社の個性: 誰がより価値があるかと見なされるかには会社の個性が反映され、構造的な格差がある
  • 二項対立の回避: プロフィットセンター・コストセンター、直接部門・間接部門といったコンテキスト依存の恣意的な二項対立分類は避けた方が良い

■ 8. 全員での価値創出

  • 部署との疎結合: 事業がどのように売上を立てコストを支払っているかを意識することは大切だが、それは部署には密結合しない
  • トータルでの価値創出: 社員全員でトータルでどのような価値を創出しているかに向き合っていく必要がある
  • 負い目の排除: 間接部門だから価値創出に関われていないといった変な負い目を感じて仕事をする人がいて欲しくない
  • モチベーション向上: 全員が価値に向き合い、自分の仕事が価値に繋がっていると感じられながらモチベーション高く仕事に当たれる方がより価値創出できる

■ 9. 抽象的な価値と具体的な成果

  • 相補関係: 価値は曖昧で抽象的であり、それと相補的な関係にあるのが具体的な成果
  • 成果の評価: 実際に表出してきた成果物、売上や利益、顧客数などの具体的なアウトカムを元に価値創出に繋がっていたかを評価する
  • 不正な利益の排除: 自分たちが是とする価値創出とコンフリクトする形で上げた成果は評価されない
  • 価値観のブラッシュアップ: 思いもよらぬ成果から逆に自分たちの価値観をブラッシュアップする材料が見つかることもある
  • 継続的改善: 抽象と具体を行き来しながら価値創出とはどういったものなのかを定期的に見直し磨き続ける

■ 10. カルチャーとカルトの分水嶺

  • 語源の共通性: 文化(culture)、耕す(cultivate)、カルト(cult)は語源を同じくする
  • 紙一重の関係: 文化とカルトは紙一重である
  • 発酵と腐敗の類似: 組織風土をどう耕すかによって有益なカルチャーになるか害をもたらすカルトになるかが決まり、これは発酵と腐敗の関係に似ている
  • 分かつもの: カルチャーとカルトを分かつのは価値である
  • 外部への開放: 自分たちが価値だと考えているものを自己満足で閉じこめず、その確からしさを外部に問いかけながら変容させていくこと、反証の扉を外部に開けておくこと

■ 11. 内集団贔屓の危険性

  • 定義: 内集団贔屓とは自分が所属する集団を過大評価し、外部の集団を過小評価する傾向
  • 具体例: 自分は頑張っているのに周りは認めてくれない、チームは頑張っているのに他部署が邪魔をするなど
  • カルト化のプロセス: それでも自分たちは正しい、自分たちは特別という思い込みが強くなり、外部の意見や批判を受け入れられなくなったら組織はカルト化する
  • 弱さの表れ: 外からのフィードバックを拒むのは傷つくのを恐れる弱さに他ならない
  • 意識的な抵抗: 内集団贔屓が人間が普遍的に抱えがちなバイアスである以上、意識的に抗う必要がある

■ 12. 外部への働きかけの重要性

  • 現実の受容: 外に目を向け現実を受け入れること
  • 価値の承認: 自分たちが価値だと考えていることを認めてもらうように外部に働き掛けること
  • フィードバックの活用: そのフィードバックからその価値基準が妥当なのかを検証していくこと
  • 持続性の確保: 閉鎖的なコミュニティの中での幸福度は短期的には高められるかもしれないが、規模的には小さく持続性も乏しい
  • 三方良しの意義: 自分たちと顧客の間だけで内集団贔屓を高める共依存関係を構築し、社会に損害を与えていたら本末転倒

■ 13. 開発組織における局所最適の罠

  • 価値への接続: 自分たちの営みがどのように価値に繋がっているかを意識できるかが肝
  • 局所最適の危険: 開発組織内だけ綺麗に整備しても、それがチーム外や世の中に価値を届けられてないのであれば価値は乏しい
  • やりこみ要素: CI/CD自動化、開発プロセス改善、キャリアラダー整備など、やれること、やりたいことは無限にある
  • 確実性の高いタスク: IaC、CI/CD自動化、開発プロセス整備などはデリバリーの安定性とスピードを高める効果の確実性が高いタスク
  • カーゴ・カルトの回避: 価値に向き合わず、やった方が良いかもしれないことをやるべきこととして教条主義的に適用し続けるのはカーゴ・カルト

■ 14. 木こりのジレンマと全体最適

  • ノコギリの研磨: 研がれていないノコギリで木を切り続けるのは非効率だが、過剰に研いだ刃物は刃こぼれしやすくなる
  • 状況判断: なまくらだと思っているものが価値を出しているのであれば今のところはそれで十分かもしれない
  • 周囲への支援: 同僚や隣の部署が石斧で戦っていてそれがボトルネックになっているなら、その手助けをした方が価値があるかもしれない
  • 全体最適の視点: 全体最適を考え、どちらの方が最終的な価値に繋がるかを考えた上で判断したい
  • チーム単位の限界: 自分たちのチームだけを良くしようとしたって仕方ない

■ 15. 個人のキャリアとの調和

  • コンフリクトの存在: 価値優先の考え方は短期的には個人のキャリア形成とコンフリクトすることが少なくない
  • 打算的な利点: 会社全体の思惑や価値観を理解しておく方が、より価値創出に繋がるアクションを起こしやすくなり、報酬などのリターンも得やすくなる
  • 信頼の獲得: 周りの思惑が分かれば上手く信頼を獲得し、自分が使いたい技術を巧みにねじ込んで価値創出サイクルに融合させるなどのアクションをやりやすくなる
  • 選択肢: 受容できないコンフリクトが発生する場合は、自身が変化する、組織に変容を促す、転職等で環境を変える、現状を受け入れる、などの選択をとる必要がある
  • 幸福の最大化: あなたは自身の価値のオーナーであり、幸福の最大化を目指すべき

■ 16. 自律・自由と価値への向き合い

  • 理想の組織: 各々が自律・分散・協調し、自由に自発的に動く組織を目指すべき
  • ミドルアップダウン: 強力なリーダーシップとボトムアップが両立するミドルアップダウンマネジメントが実現された活力ある組織こそが一番価値を生み出す
  • 不可欠な要素: 各々が価値への接続を意識することは不可欠
  • 似非自己組織化の危険: 価値に向き合わないと卑近な同僚の安易な問題解決ばかりする似非自己組織化に陥る
  • プラクティスの目的: 確実性の高いプラクティスの導入は無駄な複雑化を排除するためで、不確実で曖昧な価値に向き合う時間を増やすため
  • 自由の条件: 理想の状態を維持しそこで自由に行動したいのであれば、尚更価値に向き合い、自分たちの価値を認めてもらう必要がある