■ 1. Ubuntu 26.04 LTSの全体的ビジョン
- ロンドンのCanonical本社で開催された「Ubuntu Summit 25.10」において、創設者兼CEOのMark Shuttleworth氏とエンジニアリング担当バイスプレジデントのJon Seager氏が次期長期サポートリリース「Ubuntu 26.04 LTS」(「Resolute Raccoon」)のビジョンと計画について説明した
- 重点領域: メモリー安全性を確保した基盤ユーティリティー、自動化の強化、コミュニティー中心のドキュメント、デスクトップとクラウド向けに最適化されたセキュリティ機能
■ 2. Shuttleworth氏のオープンソースへの信念
- Shuttleworth氏は自身がオープンソースの真の信奉者であると語った
- Canonicalの使命: ユーザーがあらゆる領域でオープンソースを利用できるようにする企業である
- 提供形態: クラウドでオープンソースを使いたいならクラウド向け製品を、小型デバイスで利用したいならそのような製品も提供する
■ 3. Linuxデスクトップの断片化問題
- Shuttleworth氏はデスクトップLinuxの断片化が深刻な問題であると認識している
- 「Linuxを真のグローバルな選択肢にしたいなら、実効性の高い取り組みを実施する必要があり、足を引っ張り合っている場合ではない」と述べた
- 皮肉なことに、失敗に終わったCanonicalのデスクトップ「Unity」への取り組みによって、同社の収益性がかつてないほど高まった
- 理由: その失敗のために、サーバー、クラウド、モノのインターネット(IoT)製品に注力せざるを得なくなったから
■ 4. Linuxデスクトップの可能性
- Shuttleworth氏はLinuxデスクトップの可能性を信じなくなったわけではない
- 「デスクトップにおけるオープンソースの勝利に貢献したい」と語った
- Ubuntu 26.04はデフォルトのデスクトップ環境として引き続き「GNOME」を採用している
- System76の評価: 米国のLinux PCメーカーであるSystem76と同社の新しい「Rust」ベースのデスクトップ「COSMIC」を高く評価しており、実際にSystem76はUbuntu SummitでCOSMICに関するセッションを開催した
- 課題認識: 「オープンソースコミュニティーは、エンジニアではない人向けのデスクトップの開発が別物であることを理解する必要がある。『シンプルできちんと機能する』ことも非常に重要であることを理解しなければならない」
■ 5. 開発方針の根本的見直し
- 2月にSeager氏が新任として、CanonicalとUbuntu開発チームによる今後の新しいUbuntu開発の方針を示した
- 目標: コミュニケーション、自動化、プロセス、モダナイゼーションに関するエンジニアリングの慣習を根本的に見直すこと
- Canonicalは2026年以降、ドキュメントとコミュニケーションのチャネルを統合することで、より透明性が高く理解しやすいコミュニティー主導のUbuntuビルドプロセスを確立し、新しいコントリビューターが参加しやすい体制を目指している
■ 6. コミュニケーション基盤の統合
- 「Ubuntu Community Matrix」サーバーをベースとする「Matrix」インスタントメッセージングが、Ubuntu開発者の主要なコミュニケーションシステムとなる
- Canonicalはユーザー向けと開発者向けのドキュメントの統合にも取り組んでいる
- Seager氏の認識: 「ドキュメントは重要なコミュニケーション手段」であり、二の次にすべきではない
- 現状の問題: 多くのドキュメントがさまざまなプラットフォームに分散し、内容の重複や矛盾があるほか、単純に見つけにくい場合がある
- 今後: 利用しやすく正確な形に統合される
■ 7. ビルドシステムの自動化とモダナイゼーション
- Canonicalはディストリビューションとパッケージの両方のビルドシステムの自動化に注力している
- 目標: エラーが発生しやすく退屈だが手間のかかるプロセスから、現代的な開発ツールを使用した高度な自動化システムへ移行する
- Seager氏の説明: 「可能な限り多くのプロセスを自動化する(それによって全体の能力を高める)だけでなく、プロセスをできるだけ簡素化することを目指す」
- 現状の課題: Ubuntuのビルドプロセスの多くは確かに自動化されているが、それらのシステムは統一されておらず、多くの場合、経験豊富なコントリビューター以外には分かりにくい
- 改善策: それらを一貫性のある開発パイプラインに統合することで、ビルドシステム全体が改善される
■ 8. Temporalの採用
- 同社は永続的なオーケストレーションを実現する「Temporal」などのツールを採用して、プロジェクトのワークフローの合理化やモダナイゼーションを進めている
- Seager氏の評価: 「Temporalは基本的に、分散システムエンジニアがいないUbuntu組織でも非常に複雑な分散システムを構築できるツールだと考えている」
- 目標: 十分に文書化されピアレビューを経たプロセスを活用して、ボトルネックと属人的な知識への過度な依存を軽減することで、コントリビューターが活躍できる環境を整え、規模の拡大に対応する
■ 9. Rust言語の採用によるメモリー安全性の向上
- Ubuntuはメモリー安全性の高いRust言語を採用している
- エンジニアリングチームはUbuntu 25.10から、主要なシステムコンポーネントをRustベースのコンポーネントに置き換えて、安全性とレジリエンスの向上に力を入れている
- Seager氏の強調点: 性能だけでなく、レジリエンスとメモリー安全性が主な推進力である。「Rustへの移植によってレジリエンスと安全性の向上を簡単に実現できる。私が最も魅力を感じるのはこの点だ」
- sudo-rsの採用: Ubuntuは「sudo」のRust実装である「sudo-rs」を採用しており、フォールバックとオプトアウトの仕組みがあり、従来のsudoコマンドも使用できるようになっている
■ 10. uutils/coreutilsの採用
- Ubuntu 26.04では、sudo-rsに加えて、LinuxのデフォルトのコアユーティリティーとしてRustベースの「uutils/coreutils」が採用される
- 内容: ls、cp、mvなど、多数の基本的なUNIXコマンドラインツールが含まれる
- 狙い: このRust再実装の狙いは「GNU coreutils」と同等の機能を実現しつつ、安全性と保守性の向上を図ること
■ 11. TPMによるフルディスク暗号化
- デスクトップ関連の変化として、Ubuntu 26.04で「Trusted Platform Module」(TPM)によるシームレスなフルディスク暗号化が導入される
- この機能は「Windows」の「BitLocker」や「macOS」の「FileVault」に相当するものである
■ 12. Snapアプリケーションのpermissions prompting
- Ubuntu 26.04では、「Snap」ベースのアプリケーションに「permissions prompting」が搭載される
- これはデスクトップアプリ向けのきめ細かな権限管理フレームワークである
- 目的: コンテナー型の強力なセキュリティと、ユーザー主導による事前の承認を組み合わせる
- 現状の問題: Snapの機能の1つにサンドボックスがあるが、使っていてイライラすることもある。何かを実行しようとしてサンドボックスにブロックされると、アプリがクラッシュする場合や本来の処理が実行されない場合がある
- 改善内容: プロンプトに「Firefoxがダウンロードディレクトリーへのアクセスを求めています。許可しますか」といった内容が表示されるようになる
- 開発状況: このフレームワークはまだ完成していない。この取り組みでは「カーネル、『AppArmor』(Linuxのセキュリティプログラム)、Snap、デスクトップクライアントに至るまで、非常に大掛かりな作業」が必要である
- 見通し: 全てが順調に進めば、Ubuntu 26.04のリリースまでにはpermissions promptingが完成している
■ 13. 最新コンポーネントの採用方針
- Ubuntu 26.04では再び「最新バージョンのGNOME(おそらく『GNOME 48』)と最新のカーネル」を採用し、最新のベースコンポーネントを提供するという伝統を踏襲する
- この方針のために、LTS版ではないLinuxカーネルをサポートする必要が生じたとしても、Canonicalはそうする
■ 14. Flutterベースアプリの拡大
- 新しいUbuntuでは、より多くの「Flutter」ベースアプリが使われることになる
- Flutterはオープンソースのプログラミング言語「Dart」を使用するGoogleのプラットフォームである
- 利点: 開発者はFlutterを使用することで、ほぼ全てのプラットフォーム向けのマルチOSアプリを1つのコードベースから作成できる
- Ubuntu 26.04での適用範囲: この機能にUbuntuのアプリストア、インストーラー、「セキュリティセンター」が含まれる