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AI時代の「文章を書く・文章を読む」

要約:

■ 1. NotebookLMの進化と便利さ

  • NotebookLMが驚くほど進化した
  • 雑に書いたメモを投げるだけで驚くほど綺麗なスライドが返ってくる
  • デザインも構成も洗練されていて「これでいいじゃん」と思わせる仕上がりになる
  • その便利さの裏側で大事なことを見落としつつある
  • 文章を書くこと、文章を読むことの本来の難しさを見落としている

■ 2. 文章の本質

  • 文章は単語・文・構造のレイヤーが連動しながら書き手の思考と意図を運ぶ媒体である
  • 文章は単なる情報の入れ物ではなく思考そのものの外在化である
  • 読み手はその外に出された思考を自分の中で正確に再構築することではじめて理解に到達する
  • 読むことも書くことも思っている以上に高度な営みである
  • 文章は書き手の頭の中にある思考モデルを言葉という形式に変換し、それを読み手が再構築することで意味が成立する
  • このプロセスは一方向の伝達ではなくある種の共同作業に近い
  • 書き手は自分の思考を「構造→文→単語」という順で形にする
  • 読み手はその逆方向から「単語→文→構造」へと読み解きながら思考を復元していく
  • この同期作業がうまくいったとき文章ははじめて役割を果たす

■ 3. 読むという行為の複雑さ

  • 読む行為は思っているよりはるかに複雑である
  • 脳はまず単語を処理し、次に文法構造を組み立て、最後に文章全体の構造を理解する
  • これはボトムアップの処理である
  • 読み慣れている人ほど文章の冒頭から「これはこういう話なのではないか」と構造を仮置きする
  • その予測に照らして文や単語を読み直すトップダウンの処理も同時に走っている
  • この二つが往復することで読み手は意味を確定させていく

■ 4. 読むことの各レベル

  • 単語レベル:
    • 読むとは書き手の単語選択の意図を拾いにいくことである
    • そこに書かれている単語がなぜその単語なのかを探る
    • 似た単語ではなくちょうどその一語が選ばれている理由を探りにいく意識を持つことが求められる
    • 語の温度差やニュアンスの微妙な違いを拾おうとしない読みは意図の半分を取りこぼす
    • 単語を捉えることはその細部に踏み込む行為である
  • 文レベル:
    • 読むとは文の骨格を正しく組み立てることでもある
    • 主語はどれか、述語は何にかかっているか、修飾語はどの範囲を指しているのかを問いかける
    • こうした構文的な問いかけを怠ったまま読み進めても文章は理解できない
    • 構文を読み解くことは読解の必須プロセスである
  • 構造レベル:
    • 読むとは段落や見出しがつくる全体の構造を把握することである
    • どの話題が主軸でどこが補助なのかを理解する
    • 論点はどう展開され何に向かって進んでいるのかを把握する
    • 文章は構造がわかってはじめて意味が正しく伝わる
    • 構造を読まずに文だけ追っていても部分の寄せ集めにしかならない
    • 読むとは書き手の思考の構造を読み手側で再構成することである

■ 5. 書くことの難しさ

  • 書くとは読み手が上記のプロセスを誤らずにたどれるよう言葉の配置や情報の順序を設計することである
  • 単語レベル:
    • 語彙の選択は思考の解像度をそのまま反映する
    • 同じように見える二つの語でも距離感やニュアンスがまったく違う
    • 書ける人はここにかなりの意識を払っている
  • 文レベル:
    • 文の流れをどうつくるかが重要である
    • 主語と述語の関係、文同士の接続、文長とリズムを考慮する
    • 箇条書きは便利だが断片の羅列になった瞬間、文章ではなくその場にいた人だけがわかるメモになってしまう

■ 6. 箇条書きの問題点

  • 問題1:分類の軸が途中で変わっている
    • 会社という軸で並んでいるのに途中から突然今後(時系列)に切り替わっている
    • 軸が変わると読み手は何を基準に並んでいるのかを見失う
    • これに気づかないまま箇条書きを続けると読み手の頭の中では構造が崩れ始める
  • 問題2:同じ階層に抽象度の違う情報が混じっている
    • タスク、状態、イベントという種類の違う情報が同じレベルで並んでいる
    • 読み手の脳は同じ階層=同じ種類のものが並んでいると期待して処理する
    • タスク・状態・イベントが混ざると構造が曖昧になり意味のまとまりが生まれない
  • 問題3:ネスト(階層)が深くなるほど文脈の種類が混ざる
    • 意思決定項目とサブタスクが同じ階層に混在する
    • 階層を深くすればするほど文脈の種類を統一しないと読み手の負荷は急増する
  • 問題4:因果も優先順序も見えない
    • なぜ見積を再提示するのか、稟議待ちとどうつながるのか、ミーティングは何を決める場なのかといった意味の関係が抜け落ちている
    • 読み手は断片から因果関係を補完しなければいけない
    • これは文章ではなくその場にいた人だけが理解できるログになっている
    • 書き手が省略した思考コストを読み手が肩代わりしているだけである
  • 人に正しく伝えるためにはログを文章に変える必要がある

■ 7. 構造レベルの書き方

  • 構造とは読み手にどの順番で理解してもらうかを設計する仕事である
  • 結論、背景、根拠をどう配置するのかを考える
  • どこで区切りどこで流れを転換させるのかを決める
  • 構造は読み手の認知負荷を左右する
  • 書ける人ほどここが驚くほど丁寧である

■ 8. AI時代の危険性

  • NotebookLMのようなツールは多少雑なメモを渡してもそれなりに整ったスライドや要約に仕上げてくれる
  • 構成もデザインも綺麗で読めばなんとなく理解した気になってしまう
  • その便利さには一つ厄介な側面がある
  • 中身がとんちんかんでもAIが構造的に美しい形に整えてしまうという点である
  • 人間は外形が整っているものに対して「これは正しいのだろう」と無意識に信頼を寄せる
  • 思考が雑であってもそれっぽく再構成されると破綻に気づきにくくなる
  • AIの構造化が良すぎるせいで人間の側の思考の粗さが見えなくなる
  • さらに厄介なのはAIが整えたアウトプットを見て「そうそう、これが自分が言いたかったことだ」と感じてしまう現象である
  • よく考えてみると自分の中にそんな整理された思考はもともと存在していなかったりする
  • 綺麗な構造のほうに自分の思考を後付けで寄せてしまう
  • この錯覚が積み重なると本来必要だったはずの深く考えるプロセスが徐々に失われる
  • AIは文章を整えてくれるが思考そのものの破綻には気づかないし直してもくれない
  • 整っているように見えるという理由だけでその破綻を見逃してしまう
  • AI時代の危険とは文章が壊れていくことではなく思考が壊れていくことに気づけなくなることである

■ 9. 書ける人がAI時代に強くなる理由

  • 書ける人はそもそも自分の思考を構造として組み立てられる
  • その構造がしっかりしていればAIに投げたときに要点がズレることはない
  • むしろAIはその構造をそのまま増幅しより見やすくより伝わりやすい形に整えてくれる
  • 逆に思考の構造が曖昧なまま書いた文章をAIに渡しても出てくるアウトプットは曖昧なままである
  • これはAIの性能の問題ではなく入力となる思考の精度の問題である
  • AIは製造機ではなくて増幅器である
  • 粗い入力は粗いまま、精密な入力はより精密なかたちで返ってくる

■ 10. 形式変換の容易さ

  • 書ける人は文章を書いた後にこれをどんな形で伝えるのが一番いいかを自然に考える
  • 文章で伝えるべきか、図解にすべきか、スライドが合うのかを考える
  • 今まではその形式変換にそれなりの時間がかかっていた
  • AIがここを代わりに担ってくれる
  • 文章さえしっかり書いておけば読み手の特性に合わせた形をほぼゼロコストで作れるようになる
  • 書ける人は書いた瞬間にあらゆる読み手へ同時に届けられる人になる
  • 形式変換という作業はAIに任せられるようになった
  • 今の時代に問われるのは何をどう構造化して書いたかという根本の部分である
  • 書ける人はAIと組んだ瞬間に生産性も影響力も跳ね上がる
  • 書けない人はAIに任せてもズレ続ける
  • この差はこれからどんどん広がっていく

■ 11. 読む・書く・考えるの三位一体

  • リクルートワークス研究所が出しているWorks誌のNo.163ではこれら三つの行為は分離できないと指摘している
  • 読むには書き手の意図を推測し自分の中で意味づける思考が必要になる
  • 書くとはその思考を構造化して外に出すことである
  • 一度外に出した文章を読み直すことでまた考えが深まり書き直したくなる
  • 読む→考える→書く→読むという循環を回すことでしか思考は洗練されていかない
  • 読む力が弱ければ書けないし書けなければ考えが浅くなる
  • 考えが浅いままでは他人の文章も深く読めない
  • 三つが相互に支え合っているからこそ切り離せない

■ 12. AI時代における能力の差

  • AIは文章を整えてくれるが思考そのものを鍛えてはくれない
  • AIを使いこなすには読む・書く・考えるという循環が前提になる
  • 読む力は理解の質を決め、書く力は思考の質を決め、そして両方を支えるのが考える力である
  • AIが文章をきれいに整えてしまう時代だからこそ人間は文章を創る能力で差がつく
  • 書ける人はAIと組んだ瞬間に影響力が跳ね上がる
  • 書けない人はAIに任せてもズレ続ける
  • 他人の文章をAIで要約・スライド化していても仕事は進捗するが自分の能力は伸びない
  • 読む・書く・考えるという三位一体の言語能力を備えていることがAI時代にこそより強く求められる