■ 1. マネジメントスキルの学びにくさ
- 多くの専門職ではロールモデル・スキルアップのロードマップ・キャリアが会社の仕組みとして整えられ社内の話題にもよく登る
- マネジメントを主たる業務にしている人にとってこの土台は薄く感じる
- 技術的な専門職の仕事は客観的な良し悪しで判断される
- 質の良い仕事とまずい仕事は自分も周囲も同じように認識できる
- 技術的な仕事は結果からの明確なフィードバックを得られやすい
- プログラミングなら間違っていればエラーが返ってくることによって間違いがはっきりする
- 人によって意見が分かれる高度な技術テーマであってもこれは人によって認識が異なるテーマであることは同意されやすい
- マネジメントは良し悪しで判断しにくい理由:
- マネージャー同士が働く機会が限られている
- マネージャーは少数者
- 未経験者からの評価という非対称性
- 好き嫌いや人間関係の相性
- マネジメントとリーダーシップの混同
- 多くの専門職は同じ専門職と働く機会があるがマネージャーはマネージャーと一緒に働く機会は多くない
- 同じ職能から学びにくいという働き方の性質がある
- 職能組織はあっても職位組織はなかなかない
- マネジメントそのものが理解される機会が限られマネジメントとして素晴らしい仕事/悪い仕事は何かという判断の質は育ちにくい
- マネージャーは組織構造上少数者で少数者というだけでも悩みは深くなる
- 現場のメンバーから評価される際はマネジメント未経験者から評価されるという非対称性がある
- 好き嫌いや人間関係の相性もマネジメントへの理解を難しくする
- 本来異なるスキルであるマネジメントとリーダーシップがマネージャーという一つの役職にまとめられていることもよくある
- ある人にとっては良いマネージャーと評価されても別の人にとっては悪いマネージャーと評価される
- マネージャー本人にとってもどのようにすればよりよいマネージャーになれるのか分からなくなる
■ 2. 1950年代の職場環境
- 戦後復興のさなか中学校や高校卒業したばかりの若い人達は金の卵と呼ばれ企業はこぞって採用
- 人口動態において若者が多く若手が果敢にチャレンジする機会があった
- がんばれば昇格できる時代
■ 3. 1980年代の状況
- 戦後復興を乗り越えて高度成長期の栄華を極めた1980年代では1950年代の人材がベテランとなり企業組織の中核を担う
- 企業の成熟と共に組織の人数に対してキャリアアップの受け入れ先となる課長や部長といった職位が足りなくなる
- ポスト詰まりが常態化
- 組織階層を増やしてもポストが足りなくなり当時の若い人達にとってキャリアを積み上げる難易度が高くなる
■ 4. 1990年代の変化
- 企業規模の拡大の停滞が始まりポスト詰まりは更に悪化
- 第二次ベビーブーム世代が就職するタイミングでバブル崩壊が重なる
- 就職を希望する若い人が多いにもかかわらず企業は人を受け入れることができない状況
- 多くの若い人が正規雇用に付くことが難しくなる
- 正規雇用を得たとしてもライバルが多く昇進を手にする人は一握り
- 企業間競争よりも組織内の出世競争が激しくなる
- 人事施策は育成から選抜へと変化:
- わざわざ育成するコストを掛けるのではなく過酷な状況でも勝手に自分で育つ人を引き上げる
- リーダー・マネージャーは損をするなのにやりきる責任感のある人を登用
- 台風でも出社するような人が忠誠心として認められ評価される
- 生存者バイアスが人事育成の方針になる
- 企業にとって労力のかかるキャリアの用意や育成を当事者に押しつけることによって低コストで実施
- 成果主義を導入した大企業の中には自分の評価を上げるために部下の育成よりもプレーヤーに徹したマネージャーも増加
- 若手の育成は自分のライバルを増やすことにもなりかねない
- 停滞は数年で終わること無く長く続くことによって人材育成の組織的な機構が空洞化
- 人材育成を負担に感じていた中堅企業や新興IT企業では顕著
- 当時20代で今の40〜50代にマネジメント育成を会社からしてもらった経験を聞けばその手薄さに驚く
■ 5. 2000年代のフラット化の悪影響
- バブル崩壊の影響は少なくなるが就職氷河期は続く
- 職位のヒエラルキーへの嫌悪が強くなり組織ヒエラルキーのフラット化が進む
- フラット化によって段階的な中間管理職(係長/課長代理/課長/部長代理/部長)やそこでの段階的な経験機会が失われる
- 戦略レベルの意志決定者と現場リーダーの二極化が進む
- 職位が減るものの評価グレードは残り続ける
- 組織はフラットだが昇格ポストはさらに狭くなり若者から見たポスト詰まりは悪化
- フラット化は多くの場合でポジティブのように語られる
- 新人にとって職位の3つ4つ先が突然社長という構造の有効性への疑問
- 風通しが良いと形容されるが本当に風通し良く話せているのか
- 職位の境界を担う中間職位に負担が押し込められているケースが多々ある
- 1980年代後半からマネジメントの経験機会の細さが長く続く
- 会社組織としてのマネジメント層育成の動機の欠如と現場にとってのマネジメントへの関心の薄さが常態化
■ 6. 2010年代後半から2020年代の転換
- 2010年代に入り若い人の就職状況において数十年ぶりに安定した売り手市場になる
- 働き方改革によって無理な働き方をさせることはしてはならないこととなる
- 高い職位からの厳しさや率直さの指摘はひとまとめに加害と被害の関係として解釈されやすくなる
- 部下への干渉はリスクと見なされるようになる
- 職場の人間関係の距離が遠くなるかと思えば分業化した個人主義的な働き方からチームとして頻度の高いコミュニケーションを通して仕事をするように変化
- プロダクト開発でも人材においても新しい働き方に合わせたマネジメントへの関心が高くなる
■ 7. 現在のマネージャーをとりまく混乱
- 2025年において依然として40-50代のマネジメントの知識・経験にはバラツキが大きい
- 多くの40-50代にとって自分のロールモデルはいないし教育投資も限られている
- 現在の40-50代のマネジメント層にとって自分のキャリアをふりかえるとまるでサバイバル
- それを若手に繰り返させることは許されない
- 20-30代の次世代のマネージャーにはマネジメントのあり方を示さなければならない
- 解消しなければならない状況:
- 技術と比べて標準的な学習の機会が乏しい
- 教育を受けたこともないのに教育を提供しなければならない
- 人格の評価と専門職としての評価が混同される
- 職能経験の非対称性から専門スキルとして評価されることが難しい
- なのにふるまいとして見本を見せなければならない
- 職能表に基づいてマネジメントスキルを伸ばそうと思っても実際には人格者としてのふるまいを期待されることが多い
- 高い言語化能力や情緒的な求心力まで求められている
- プレイングマネージャーはよくないことだと合意はありつつも実態としては包括的なリーダーシップが求められている
- 職能表に書かれるマネジメントばかりしていてはマネージャーとして失格と見なされる
- マネージャーなのに実態はリーダーと混ざっていたり様々な期待が足かかっている状況
- 自己犠牲は避ける時代になったはずなのに依然としてリーダー・マネージャーは損をする状況が続いているケースを多く見る
■ 8. マネジメントスキルの明確化と学習環境の整備
- ここ数年で状況は変わりつつある
- 学習可能な一般技術としてのマネジメントの萌芽は始まっている
- 環境整備の兆候:
- 現場経験の状況に寄り添ったマネジメントに関する書籍が増加
- 戦略的意志決定者と現場リーダーの間を埋める職位の定義や任命も進行
- 会社を超えて交流できるようなイベントも増加(Regional Scrum Gathering Tokyo・emconf・pmconf)
- マネージャーの横の繋がりというテーマで豊富に語られる活動が増加
- よりマネージャーという職能を学びやすく評価されやすくなる
- 一度プロダクトマネージャーになってから現場の職能に戻る人やエンジニアリングマネージャーを経験した後にエンジニアに戻る人もぽつぽつ増加
- メンバーからマネージャーへは一方通行なキャリアでは無く自分の仕事の幅を広げる通過点として双方向に開いているケースが増加
- 有識者の間で整理が進みつつある具体テーマ:
- マネジメントスキルの明確化(リーダーシップや人格との区別)
- 対象の明確化(プロダクトのためのマネジメント・メンバーのためのマネジメント・プロセスのためのマネジメント)
- 負荷とスキルの平準化(マネージャーとマネジメントの区別・マネージャーだからこそのマネジメント・メンバーも習得する共通スキルとしてのマネジメント)
- 習得方法(産業や業界として知見共有・組織における一般的な教育投資・職位同士のピアコーチングや相互メンタリング)
- 2026年はマネジメントにとってもマネージャーにとっても働きやすくなる年になる