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【特集】AI巡るメモリ争奪戦――2026年はPC、スマホに“冬”が到来

要約:

■ 1. メモリ高騰の現状

  • DRAMだけでなくSSDやHDDまで高騰と品薄が続いている
  • その一方CPUは人気のある特定製品のみやや値上がり傾向にあるがDRAMのような高騰や品不足とは無縁
  • この一点で今回のDRAM高騰はPanic Buy必要以上の買い占め買いだめであると断言できる

■ 2. DRAM急騰の原因

  • もともとの話は10月3日にOpenAIがSamsungおよびSK Hynixとの間でDRAMの供給契約を結んだ事を発表したことに端を発する
  • この契約ではSamsungとSK Hynixが両社合計で毎月ウェハ90万枚分のDRAMをOpenAIに供給するとなっている
  • ただしこれは今すぐではなく将来の話
  • リリースにも明確にtargeting 900,000 DRAM wafer starts per monthとされており今後両社はこの契約に向けてDRAMの生産能力を引き上げていく計画

■ 3. 市場の早とちり

  • SK Hynixは2026年のDRAM生産量を今年の8倍にする計画があることを韓国の韓経ドットコムの11月21日の記事で報じた
  • これを今すぐこうなると早とちりしたベンダーがどこかにあったらしい
  • 11月になって突如DRAMのスポット価格が高騰
  • 10月にこのニュースが報じられて慌てたどこかのベンダーが急遽DRAMの契約の積み増しを掛けたらしい
  • それも1社でなく複数社がこの動きをしたと思われる
  • SamsungとSK HynixはOpenAIの契約分を賄うための増産で手一杯であり積み増しが行なわれた契約をこなせる余力は少ない
  • 契約先はOpenAIと契約を結ばなかったMicronに集中するのはやむを得ない

■ 4. Micronの業績急上昇

  • この結果がMicronによるCrucial事業の閉鎖と記録的な2026年第1四半期決算
  • Micronは大きく4つの事業部門がある:
    • CMBUはハイパースケールのクラウド向けのDRAMとHBMを使うすべての顧客が対象
    • CDBUは中堅のクラウド/エンタープライズとOEMのデータセンター向けDRAMとすべてのデータセンター向けストレージが対象
    • MBCUはモバイルおよびクライアント向けのDRAMとストレージが対象でCrucialはこのMBCUのブランド
    • AEBUは自動車産業機器および民生機器に向けたDRAMとストレージが対象

■ 5. 事業部別の売上伸び率

  • 前四半期からの売上の伸び率:
    • CMBUは16.3%
    • CDBUは50.9%
    • MCBUは13.2%
    • AEBUは19.9%
  • CDBUの大幅な伸びがMicronの決算が好調だった最大の要因でありこれは現在のDRAM不足が招いたうれしい誤算
  • CDBUのこの売上はHBM以外の契約が大幅に伸びた事を意味し単に件数だけでなく価格もかなり跳ね上がった

■ 6. 粗利益率の急増

  • CDBUの2025年第4四半期の粗利益率は24.8%ほどだったが今季は56.4%まで跳ね上がっている
  • ここまで粗利益率が急増するというのは契約の金額つまりDRAMチップ単価を猛烈に上げる契約が結ばれまくったということ
  • MicronではこのCDBUの契約を最優先にせざるを得ない
  • 結果Crucial事業向けのウェハを生産する余地がないほどMicronの生産能力が逼迫してしまったのがCrucial事業終了につながった

■ 7. 2026年の見通し

  • この逼迫が1~2四半期で終わる程度ならあるいは一時的にCrucialブランドを休止するという選択肢もあったと思う
  • Micron的にはこの状況が2026年一杯は間違いなく続くとみている
  • 12月17日に行なわれたEarnings Callにおける説明:
    • 当面の間業界全体の供給は需要を大幅に下回ると見込まれる
    • こうした需給要因が相まってDRAMとNANDの両分野で業界全体の逼迫状態を招いておりこの逼迫は2026年以降も継続すると予想される
    • Micronは2026年のビット出荷量を20%増加させる見込みだがすべての市場セグメントにおける顧客の需要を満たせない状況は残念

■ 8. パニック買いとする理由

  • 本当にAI需要が加速しているならCPUも不足しないとおかしいから
  • 現在のAIデータセンターの使われ方はCPU+GPUの構成のサーバーを大量に並べる方式になる
  • GPUサーバーにはDDRもSSDもHDDも必要ない
  • GPUサーバーはチップ上のHBMを使うからDDR5は不要
  • 本当に汎用サーバーが大量に必要になっているのであれば間違いなくサーバー向けCPUも増産を掛けなければならず当然コンシューマ向けCPUの供給にも影響が出るはず
  • 秋葉原ではそんな動向はまったくないしこれは海外でも同じ

■ 9. 在庫積み増しの連鎖

  • 現在のDDR5とかSSD/HDDはサーバーメーカーなどが今後需要が急増しても良いように在庫を積み増しているのが価格高騰と品不足の理由
  • OpenAIのウェハ大量契約に起因してメモリ調達を焦ったメーカーがメモリも足りなくなるならストレージも足りなくなるんじゃねと早合点した結果SSDが不足気味になった
  • SSDも足りないならHDDも足りなくなるだろうとさらに早合点を積み重ねた結果が現状

■ 10. 問題解消の見通し

  • DDR5に関してはおそらく1年程度は変わらないだろう
  • 全部契約に基づくからでMicronが2026年中は解消しないとみているということは1年程度の相対的に長期な契約が多いということ
  • 買い漁っていたメーカーが実際にはやっぱ要らなかったと判断しても契約期間が終わるまでは毎月契約した分量がメモリメーカーから届くことになる
  • その間は市場に出回る分量は当然減らざるを得ず品不足と高騰は収まらない

■ 11. 2027年以降の展開

  • 現在の契約が終わるであろう来年末~2027年第1四半期末あたりから市場に流れる分が急激に増えると思われる
  • サーバーなど向けに現在メーカー各社が貯め込んでいるDDR5とかSSD類はおそらく2026年中には消費しきれず2027年は相当契約を減らすと考えられる
  • メモリメーカーは生産能力を2026年中に増強しておりDDR5の生産量も必然的に増える
  • その頃にはSSD/HDDの在庫もメーカーに十分積みあがることでやはり市場への流通が急に増える
  • 品余りになれば価格下落につながる

■ 12. 2026年の購入戦略

  • 2026年はちょっとPCを買うには不適切な時期
  • 必要という方はちょっと高値に付くであろうことは覚悟するしかない
  • 待てるなら2027年まで待つのが得策
  • 問題はこれがPCだけでなくスマートフォンやゲーム機などにも波及しそうなこと
  • その意味でも2026年はいろいろ厳しい年になりそう