■ 1. どの会社でも起こる1on1の形骸化
- メンバーの成長支援やエンゲージメント向上のために1on1を導入する企業は年々増えている
- 導入当初は対話を通じて成長を支えるや心理的安全性を高めるといった期待が語られる
- 数年経つと次のような声が聞こえてくることが少なくない:
- 上司によって1on1の内容も進め方もばらばらである
- 雑談や業務の進捗確認だけで終わってしまう
- 上司が一方的に話しメンバーは聞き役になってしまう
- メンバーが悩みや希望を話してもその後何も変わらない
- こうした状況が続くとメンバーの側には結局話してもあまり変わらないや評価に響きそうで本音は言いにくいといった感覚が生まれ1on1は義務的に参加する場になりがち
- 上司側もとりあえず時間だけは確保しているが毎回何を話せばよいか悩むやメンバーが受け身で深い話に入っていきにくいと負担を感じるようになる
- 結果としてせっかく時間と工数をかけているにもかかわらず1on1がメンバーの成長支援という本来の目的から離れ形骸化してしまうケースが多く見られる
■ 2. 英会話サービスA社の問題意識
- A社ではメンバーの成長支援を目的に3年前から全社で1on1を導入していた
- 次第に多くの企業と同じ課題に直面するようになった:
- 上司によって1on1の内容や深さが大きく異なり一部で大きな不満になっている
- 上司も支援したいと思っているが多忙なため準備が不十分な状態で臨んでいる
- 結果として仕事の相談や進捗確認の場になり成長が支援されているとは言い難い状況に陥っている
- 1on1の全社推進を担う人事課長も管理職向けの研修や進行マニュアルの作成などの施策を講じてきた
- しかし上司ごとのバラつきを均していくことの難しさを感じ始めた
- 社長からもこれだけ工数をかけているわりに成長促進につながっているように見えないや業務時間をひっ迫することにもなるのでいっそ1on1はやめた方がいいのではないかという声が上がっていた
■ 3. A社の課題整理
- A社の人事担当者は1on1の現状と課題を次のように整理した:
- 上司のスキルやスタイルによって1on1の質の差が大きい
- メンバーが十分に準備できておらずなりゆき的な会話や業務相談になりがちである
- 上司メンバー双方の工数が大きく日常業務を圧迫している
- この三つを同時に解決しない限り形骸化の流れは変えられないと考えたことが改革に取り組む出発点となった
■ 4. A社の取り組み:GeminiのGem機能の活用
- 転機となったのは人事課長がGeminiのGem機能に着目したこと
- GeminiのGemは特定のタスクに特化した専用AIを作成できる機能
- 日々の業務効率化にAIを使い始めていた人事課長はGemを1on1の準備に使えないかと考えた
■ 5. 再設計された1on1の流れ
- A社が再設計した新しい1on1の流れ:
- 上司との1on1は原則30分に短縮
- その代わりメンバーは1on1開始5から10分前までにGemに状況を入力する
- 入力内容は次の三つに絞る:
- 今困っていること
- 今期の成長目標に対して今週取り組んだこと
- 成長目標に対して次に取り組もうと思っていること
- これらを入力するとAIからはねぎらいのコメントとともに次の二つが提案される:
- 今週の1on1で上司と話すとよい推奨テーマ
- 自分の成長につながる上司への問いの候補
- メンバーはその出力を参考にしながら上司に投げかける内容を整理して1on1に臨む
- メンバーはこの出力結果を1on1前に上司と共有し画面やメモを見ながら対話を進める
- 上司は状況をゼロから聞き出したり質問内容を考えたりする必要がなくなりメンバーの成長にどう関わるかという本質的な部分に集中できるようになった
- ともすると業務相談になりそうなテーマでも成長という観点からAIでサポートを受けることで業務推進と成長が同時に進む1on1が安定的に行われるようになった
■ 6. 成果:時間と工数の削減
- この取り組みによりA社ではまず1on1にかかる時間と工数が大きく削減された:
- 1回あたりの1on1時間は1時間から30分に短縮
- メンバーの事前準備も5から10分に収まり負担感が軽減
■ 7. 成果:満足度の向上
- 1on1の満足度は高まっている
- メンバーからの声:
- 短い時間で考えを整理できるので30分でも十分に深い話ができるようになった
- 自分から問いを投げかける形になるので進行や内容に迷うことがなくなった
- 成長目標と日々の仕事がつながっている感覚を持てるようになった
- 上司側からの評価:
- 何を聞けばよいか悩む時間が減り対話に集中できるようになった
- メンバーの振り返りが整理された状態で共有され本音を引き出しやすくなった
- 1on1はこうすればよかったのかと安心して取り組めるようになった
■ 8. 成果:1on1の位置づけの変化
- 工数の大幅削減と質の向上が同時に実現されたことで1on1はやめるかどうか議論されるものからメンバーの成長と定着に欠かせないものとして認識されるようになった
- 離職に関する相談も以前に比べて突然持ち込まれることが減った
- キャリアについて迷っているや今後の働き方を考え直したいといった悩みが早いタイミングで1on1の場に上がってくるようになった
■ 9. 今後の展開
- A社ではGemを活用した1on1の仕組みを土台に今後次のような展開を検討している:
- 1on1で頻出するテーマや問いをAIで収集整理し育成施策や配置検討に生かす
- 評価面談やキャリア面談と1on1をAIで連動させ一貫性のある成長支援につなげる
■ 10. 取り組みの特徴と示唆
- 特別な専用システムを開発したわけではない
- もっとこうなったら理想的という1on1の姿を起点に人事担当が既存のGemを組み合わせて仕組みをつくったことが特徴
- 1on1の形骸化や工数の重さに悩んでいる企業は少なくない
- A社の事例は質の向上と時間削減のいずれも諦めず何とかしたいという意志を持った人事担当者がAIをうまく取り入れることで工数削減と満足度成長実感の向上を同時に実現できた事例