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なぜExcel/VBAは軽視されるのか:技術ヒエラルキーと現場・管理の非対称性

要約:

■ 1. 問題提起:技術ヒエラルキーという構造的偏見

  • 著者はC#・Python・クラウドAPI・AIエージェントといったモダン技術とExcel/VBAによる現場改善の両方を実践している
  • 技術の内容(何を実現したか)ではなく技術の種類(何を使ったか)でエンジニアの価値が判断されるという不合理なヒエラルキーが存在する
  • 現場の改善が「属人化」と一蹴される問題と管理側に善意の改善が「負債」として降りかかる問題という非対称な衝突が生じている

■ 2. 目に見えない技術ヒエラルキーの実態

  • クラウド・分散DB・Rustは「高尚」とされ使用者が高度なエンジニアとみなされる一方でExcelやVBAは「古臭い非エンジニアの道具」として軽視される
  • バージョン管理や課題管理システムで適切に管理されたExcel/VBAの運用体制でさえ管理部門やベンダーから「管理できていない」と決めつけられる事例がある
  • VBAコードのみのgit管理提案のようにドメイン知識を欠いた実情から乖離した提案がなされることがある
  • ChatGPTやGeminiなどのAIも技術コミュニティの学習データに反映された偏見を回答に含む場合がある
  • 評価対象の内容を詳細に吟味する時間・労力が不足するため外形的情報のみで判断される偏見は人間社会の一般的な現象でもある

■ 3. 偏見の心理的背景:ドメイン恐怖症

  • 医療や法律と異なり情報処理技術には名称独占も業務独占も存在せず誰でもエンジニアを名乗れる
  • ドメイン知識と技術力を併せ持つ現場の人材はDX推進において情報処理専門家より圧倒的に有利な立場にある
  • 情報システムの提供・管理側はトラブル時に現場固有のドメイン知識の理解を要求されがちであり強い心理的負荷(ドメイン恐怖症)を抱えやすい
  • この構造が「専門性の境界を明確にしたい」「自分たちだけが使う技術を高く位置づけたい」という防衛的動機を生み技術コミュニティへの発信内容にも反映される

■ 4. 管理部門の立場:統制と持続可能性の確保

  • 管理部門の役割はシステム提供による業務向上だけでなくセキュリティとガバナンスの維持にも及ぶ
  • 特定部門にのみ技術的特権を与えることは組織全体の統制上不可能であり現場の不満を抑えざるを得ない構造がある
  • 技術力の高い現場人材への業務依存が生じた場合その人材の離脱後に業務継続が困難になり管理部門への要求が高まる
  • 現場改善による要求水準の引き上げは管理部門のドメイン知識不足とリソース制約から対応が極めて困難である
  • 上記の理由により現場の業務改善は「属人化リスク」または「シャドーIT」として捉えられ部門間関係が悪化する

■ 5. 現場部門の立場:業務改善と属人化解消の実態

  • 現場がExcelなど利用可能な技術を選ぶのは管理部門に禁止されにくく持続可能性が最も高いためである
  • 現場開発が発生する根本原因は公式システムが業務要件を満たさず改修要求が費用対効果を理由に却下されてきたことにある
  • 業務課題の解決リソースを現場が自発的に投入するのは未解決の被害が自部門に直接降りかかるからであり合理的な判断である
  • 自部門内でPDCAサイクルが回り始めると部門間・組織間の交渉調整プロセスが不要になり改善速度が桁違いに向上する
  • 管理部門が「属人化」と一言で片付けることで現場には不満と管理部門への不信感が蓄積する
  • 皮肉にも現場の技術活用の目的は「業務の属人化解消」であることが多く管理側の言う「技術の属人化」とは指す意味が異なる

■ 6. 技術の種類を決めるのは技術力ではなく立ち位置

  • Excel/VBAは現場部門で使える技術の代表格であり管理部門から統制リスクとして扱われやすい
  • クラウドや分散DBやRustは情報処理専門家のみが扱う技術であるため習得が望ましいものとして高尚に映る
  • FileMaker・Kintone・Google SpreadsheetとGASなども現場技術の選択肢となりうる
  • 技術の種類が偏るのは現場で使える技術がそもそも限定されているためであり技術力とは無関係である
  • 著者は両方の技術領域を経験したことで技術間の壁が技術力ではなく立場の違いに起因すると結論づけている

■ 7. 部門間の反発を協力に変えるための提言

  • ハイブリッドな立ち位置の公認:
    • 現場の技術人材に管理部門への兼務や技術アドバイザーとしての公的役割を付与する
    • これにより現場は管理側の統制意図を理解し管理側は現場のドメイン知識へのアクセス経路を得る
  • 技術の種類ではなく解決の質で評価する:
    • 「Excelだからダメだ」という技術種別によるマウントを廃し業務継続性への貢献度を共通評価基準とする
    • 管理部門はExcelの「禁止」ではなく安全かつ非属人化された運用方法(コード共有・ドキュメント化支援)を提示すべきである
  • 技術はドメイン(業務)を救うために存在し管理はその救済を持続させるために存在するという共通目的を出発点とする
  • 各立場が抱える「理不尽」を相互に認め合うことが技術ヒエラルキーという虚構を崩す第一歩となる

MEMO: