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3つの「AI精神症」――投資家のAI妄想、経営者のAI妄想、そしてAI批判者のAI妄想

要約:

■ 1. 「AI精神病」という用語の定義と背景

  • 「AI精神病(AI psychoses)」はチャットボットによって誘発・増幅された妄想を抱く人々を指す比喩的用語
  • 医療問題と隣接するため将来的に廃止が予測されるが現時点では有用な比喩として機能する
  • 妄想そのものは新しい現象ではなく歴史的先例が存在する
    • モルゲロンズ病:体内でワイヤーが成長するという妄想であり17世紀に遡る
    • 集団ストーキング妄想:陰謀集団が隠しメッセージを送り込むという信念であり数世紀前から存在する
  • インターネットはまばらに分布する同種の妄想を持つ人々の連帯を可能にし妄想を増幅させる
  • LLMは昼夜を問わず即座に迎合的な応答を返すことで妄想をさらに深層へと引き込む
  • 一過性の認知の誤作動をチャットボットに説明させることで完全に誤った信念体系(妄想)が構築される危険がある

■ 2. 投資家のAI精神病

  • AIは史上最大規模の投資バブルを形成しており6000〜7000億ドル以上が投じられている
  • AIは劣悪なユニットエコノミクスを持つ
    • ユーザが増えるごとにコストが増加する
    • 利用するたびに損失が拡大する
    • 技術世代が進むほど損失が増加する
  • AI企業の全売上を合わせても年間600億ドル程度であり黒字化への道筋が存在しない
  • データセンター・GPUの実際の耐用年数(2〜3年)を5年と偽る会計詐欺が横行している
  • 「ビザンティン・プレミアム」:投資機会があまりにも複雑で投資家が理解できないために騙されやすくなる構造が成立している
  • 損失の大きさを投資の魅力に転換するナラティブが機能している
  • 巨大テック企業は自社市場の飽和後にメタバース・Web3・暗号通貨・AIと投機的新規事業を乗り継ぎ成長ナラティブを維持し続けている

■ 3. 経営者のAI精神病

  • 経営者は労働者を代替できるものなら何にでも飛びつく傾向がある
  • AIは「全ての出力が自分に直接帰属する」という経営者の自己顕示的妄想を強力に刺激する
  • チャットボットが労働者の仕事をこなせないという事実よりもボスを説得できるという事実の方が重要な結果をもたらす
  • 人間をAIで代替した結果が壊滅的な事例(AWSの障害など)が現実に発生している
  • AIセールスマンは経営者の妄想をさらに深化させ企業全体をその妄想に賭けさせる

■ 4. 批判者のAI精神病

  • 批判者のAI精神病とは「AIは例外的にひどいテクノロジーだ」という信念
  • これはAI企業の誇大宣伝を批判として繰り返す「クリティハイプ(criti-hype)」の一形態
  • AIはふつうのテクノロジーであり例外的な性質を持たない
    • 環境コストや雇用への脅威はバブルによるものであり技術自体の性質ではない
    • 問題のある人物や機関がテクノロジーを推進することは歴史上一般的な現象
    • チャールズ・バベッジは奴隷農園管理のために汎用コンピュータを発明した
    • エイダ・ラブレスは競馬の賭けのためにプログラミングを考案した
    • ウィリアム・ショックレーはシリコントランジスタの共同発明者でありながら優生学者だった
    • IBMはアウシュビッツ用タビュレータを製造した
  • AIの例外性という主張を増幅することはAI企業のバブル維持を助ける結果になる
  • AI企業の罪は株式詐欺と労働者の困窮化にあり人類の知識をスクレイピングすること自体ではない
  • サム・アルトマンらはふつうの詐欺師であり例外的な大悪魔として扱うことは彼らの評判を高めるだけ

■ 5. 自動化の二形態とテクノロジーの政治性

  • 自動化には二種類が存在する
    • 速く安く作るための自動化:資本が好む形態
    • より良いものを作るための自動化:労働者が好む形態
  • ケンタウロス:機械を使って人間の目的を達成する形態(自動はんだ付け機を活用するホビイスト)
  • 逆ケンタウロス:機械の周辺機器として人間が酷使される形態(組立ラインの労働者)
  • テクノロジーに政治が埋め込まれているのは事実だが単純・明白・不変ではない
  • 労働者が自らの判断で自動化ツールをどう使うかを決められる世界の方がよりよい
  • 逆ケンタウロスは経営者の決定がもたらす結果であってテクノロジーがもたらす結果ではない

■ 6. AIをふつうのテクノロジーとして扱うことの帰結

  • 多くの熟練した実践者がAIをプラグインのような普通のツールとして活用している
  • これらの実践者はAIを神やセラピストと取り違えておらず控えめな熱意で受け入れている
  • 熟練した労働者の実体験を否定することは正当でない
  • AI以前の自動化ツールにもプログラマを誤った方向に導くものは存在しており例外ではない
  • AIが例外的だという信念は批判者を誤った方向へと追い込む
    • 熟練の実践者が特定のツールを使うべきかどうかについてツールの道徳的性格に基づいて判断するという誤りを犯す
  • 例外的ではないからこそ他のテクノロジーを律するのと同じ力学がAIにも当てはまる
  • AI製品の有用性は何をするかによって決まり誰が作ったかや資金の出所には依存しない