/note/tech

ベストプラクティスもアンチパターンも、それ自体は何も解決しない(かも)

要約:

■ 1. 他社事例・ベストプラクティス・アンチパターンへの依存の問題

  • 勉強会等での相談に「他社の事例」「ベストプラクティス」「アンチパターン」を求める声が多い
  • 他社事例を求める背景には「他社でうまくいった方法をそのまま流用したい」という思考がある
  • 他社のベストプラクティスが自社のベストとは限らない
    • 業種、組織の規模、組織のルール、プロダクトの性質、ステークホルダー、チームのスキルは各社で異なる
    • 大企業では部門単位でも文脈が異なる
  • 文脈が違えば答えは変わるため、表面だけの模倣は意味をなさない
  • 単純な模倣は自分の頭で考えることの放棄であり、効果を生まない

■ 2. ベストプラクティスの形骸化リスク(ベロシティの例)

  • 「みんなやっているから」「うまくいくらしいから」という理由でプラクティスを導入しても、その原理を理解していなければ形骸化や悪用が起きる
  • スクラムにおけるベロシティの本来の位置づけ:
    • スクラムは経験主義(透明性・検査・適応)を重視する
    • ベロシティはチームが自分たちの力量を見える化し、改善や予測に活用するためのツール
  • 原則を理解しないことで生じる問題:
    • ベロシティが報告対象・約束の対象になる
    • 外部からベロシティの向上を要求される
    • 他チームとの比較に使われる

■ 3. アンチパターン回避だけでは不十分(兼務の例)

  • 「兼務」はプロダクト開発における定番のアンチパターンであるが、「避けろ」と言うだけでは解決しない
  • 兼務が問題とされる根拠:
    • 集中の阻害: 難しい仕事は細切れの時間では遂行できない
    • フローへの悪影響: 複数業務の並行は仕掛中の時間を伸ばし、価値を生まない期間が増える
  • 原則を理解していれば、制約の中でも代替策を検討できる:
    • 時間ではなく期間で業務を割り当てる(例: 今週はAプロダクト、来週はBプロダクト)
    • 専任メンバーと限定的関与のメンバーを区別する
    • コアタイム制による集中時間の確保
    • 並行して兼務解消に向けた組織的な取り組みを行う
  • アンチパターンを回避してもプロダクトが失敗することはあり、アンチパターンを踏んでも成功することもある

■ 4. 根底にある原則の理解が本質

  • 事例・ベストプラクティス・アンチパターンはいずれも原則の表現形態の一つに過ぎない
  • 各プラクティスやアンチパターンの背後には必ず原則が存在する:
    • ベロシティの背景: 経験主義(透明性・検査・適応)
    • 兼務の背景: 集中とフローの原則
    • ステークホルダーの言いなりになるアンチパターンの背景: 価値駆動と顧客との協調
  • 原則を押さえることで応用が効く:
    • 「集中とフローを大事にする」という原則を理解していれば、兼務・長すぎる会議・割り込みタスクの常態化を同一の枠組みで捉えて対処できる
  • 原則を理解せずプラクティスのみを覚えると「うちには合わなかった」で終わる
  • 事例・ベストプラクティス・アンチパターンを探す前に、どの原則を満たそうとしているかを考えることが重要

■ 5. プラクティスは仮説として扱う

  • プラクティスは「仮説」として扱うことが健全
    • 導入し、観察し、効果がなければやめる
    • 違和感があれば元に戻すか別の方法を試す
  • 短いサイクルで検査と適応を繰り返せば、誤りがあっても取り戻せる
  • 「後戻りできない」と思い込んで継続することのほうがダメージが大きい
  • 生成AI関連のプラクティスにも同様のことが当てはまる