■ 1. 背景と課題
- SIerの現場ではウォーターフォール型開発プロセスが長年にわたり標準化されており、豊富なドキュメント資産が存在する
- 標準プロセスには以下の課題がある:
- 習得コスト: プロセスを使いこなすまでの習熟に時間がかかる
- 属人化: 担当者のスキルや経験によって成果物の品質にばらつきが生じる
- フォーマット: 標準資産の多くがWord/Excel中心であり、AI活用に不向きである
- Word/ExcelのOffice文書はAI駆動開発においてボトルネックになる:
- AIエージェントがバイナリファイルを直接参照できない
- セルの結合・書式・図の多用によりテキスト抽出が困難
- Gitなどのバージョン管理システムとの相性が悪く、差分管理ができない
- プロンプトやスキルのリファレンスとして直接組み込めない
■ 2. 事前準備: 資産のマークダウン化
- Office文書ベースの資産をマークダウン形式へ変換することが大前提となる
- 目的は単なるファイル形式の変換ではなく、AIエージェントが参照・再利用・差分管理しやすい形への再編成である
- Anthropicの公式リポジトリにPDF/PPT/Word/Excel対応のエージェントスキルが公開されており、これを活用して変換する
- 図やフローなどMermaidで表現できる情報はMermaidで記述することで、マークダウン資産として再利用しやすくなる
■ 3. エージェントスキル化の方針
- 標準プロセスの成果物を以下の2種類に分類し、それぞれ異なるスキル方針をとる:
- 定義書・作成フローなし(超上流成果物、複数人の対話が必要な資料など):
- AIエージェントとの対話を通じて探索的に成果物を作るスキルとする
- 定義書・作成フローあり(要件定義以降の成果物、外部設計書・内部設計書など):
- 工程別に定義・フロー・フォーマットを参照する標準スキルとする
- 2種類のスキルを組み合わせることで、ウォーターフォール型開発全体をカバーするパイプラインを構成できる
■ 4. 作成したエージェントスキルの詳細
- 「定義書・フローなし」パターンのスキル:
- Anthropic公開のdoc-coauthoringスキルをベースに、上流工程向けの参考資料や観点を追加して構築
- スキルは以下のステップで対話しながら成果物を作成する:
- ステップ1(コンテキスト収集): AIがヒアリングを通じて背景・目的・制約条件を整理する
- ステップ2(構成検討・ドラフト作成): アウトラインを提案し、セクションごとにドラフトを生成・修正する
- ステップ3(読者テスト): 別のエージェント視点で疑問点や改善点を洗い出す
- VS CodeのLive Share機能と組み合わせることで、複数人とAIエージェントが共同で成果物を作成できる
- 「定義書・フローあり」パターンのスキル:
- スキル構成はSKILL.md、references/(成果物定義・作成フロー)、assets/(フォーマット)で構成する
- 各ファイルの役割:
- SKILL.md: 成果物に応じて定義・フロー・テンプレートを参照するエントリーポイント
- 成果物定義.md: 目的、記載項目、記載粒度、完成条件を定義
- 成果物作成フロー.md: 作成手順、前提、入力情報、作成順序、確認観点を定義
- 成果物フォーマット.md: 成果物のテンプレートを定義
- スキル化により期待される改善:
- 属人化の解消: 定義・フロー・フォーマットをスキル側に持たせることで、一定の品質と粒度を保ちやすくなる
- 習熟コストの低減: スキルが手順や観点をガイドするため、標準プロセスへの習熟を待たずに着手できる
■ 5. 今後の展望
- フェーズゲートの取り入れ:
- 現時点では成果物のYAMLフロントマターでステータス(draft→review→approved→baselined)を管理
- 今後はステータスチェック用スクリプトをスキルに組み込み、次工程へ進めるかどうかを評価する仕組みを導入予定
- 実現することで成果物生成だけでなく、フェーズゲートを含む開発プロセス全体の運用支援をスキル側で扱えるようになる
- 共通スキル実行環境の提供:
- 現時点は個人のローカル環境での利用を想定しているが、実プロジェクトでは複数人が工程を分担する
- 複数人が共通で利用できるエージェントスキル実行基盤の整備が必要
■ 6. まとめ
- ウォーターフォール型開発プロセスは「人が作ることを前提」として設計されており、単純なスキル化だけでは不十分
- 一方で、長年蓄積された標準資産をマークダウン化し、エージェントスキルとして再構成することで、人とAIが協調して扱える形へ変えていく余地は十分にある
- こうした取り組みが「人とAIが共に作ることを前提」とした新たな開発プロセス創出のきっかけになることを期待している