■ 1. 背景と課題
- カクヤス(現・ひとまいるグループ)は約30年前にVisual BasicとOracleで構築した基幹システムを運用し続けてきた
- 建て増しを重ねた結果、設計書なし・一部コード紛失・試験環境なしという状態に陥り、社内に全体を把握する担当者が誰もいなくなった
- システム規模:
- 操作画面2,200本
- データテーブル3,000本
- ストアドプロシージャ1,200本
- 人手による解析の試算は450人月、期限まで残り2年という状況で「1年経っても地図すら描けない」状態だった
- VMwareの契約が2027年7月に切れるという動かせない期限が迫っていた
- 会社としても2025年7月に持株会社名をカクヤスグループからひとまいるに変更し、酒類卸から物流業への業態転換を宣言した背景があった
■ 2. 解決アプローチ: AI駆動開発と業務駆動開発の両輪
- AI駆動開発:
- Amazon BedrockとClaude Codeを活用し、1,200本のストアドプロシージャを解析
- 抽出した6つの業務ロジック:
- テーブル間のデータ移動
- 在庫の評価額計算
- 売価計算
- 与信計算
- 在庫の引き当て
- 空容器の回収(酒類業界独自の商習慣)
- 本番のOracle環境をAWS上に再現し、挙動検証の足場を整備
- 実質2カ月で解析を完了
- 業務駆動開発:
- 営業・商品・店舗・物流・経理の各部門から人員を集め、AIの解析結果を業務言語に翻訳
- 2,200あった画面を業務に必要な約800へ凝縮(機能削減ではなく物流業として走るための再設計と位置付け)
- 「AIだけでも現場だけでも進まなかった。両輪がかみ合って初めて前に進めた」と担当者が語った
■ 3. AIを制御する4つの技術
- 記憶の補強: AIが忘れた内容を都度思い出させ続ける仕組み
- ルールの外部化: ルールを人の頭ではなくAIが参照するファイルに置く
- 人格の付与: 役割と経歴を与えてAIの思考の土台を定める
- 2段階方式: コード生成プロンプトを直接作らず、「プロンプトを作るためのプロンプト」から組み立てる
- これら4点が「現場での最大の発見」であり、AIは丸投げでは動かないと強調した
■ 4. 要件整理の方法論: 5W2H構造化
- AI駆動開発の最大のボトルネックはコードではなく要件の整理にあると判断した
- 現場からの曖昧な依頼を「5W2H」で構造化するフレームを導入:
- 誰が・何を・なぜ・いつ・どこで・どのように: 依頼文からある程度推測して補完できる
- HOW MUCH(費用・期限): 依頼者が言い忘れやすく、確認が必要な項目
- 「要件整理の質がそのまま成果物の質になる」と指摘し、「システムエンジニアがビジネスエンジニアになる時代が来た」と語った
■ 5. 現状と今後の展望
- プロジェクトは現在も進行中であり、「万事解決のハッピーストーリーではなく、道半ば」と担当者が述べた
- 進行中の取り組み:
- 現場主導による業務フローの再構築
- 新旧システムの比較による段階的な切り替え
- 部門横断のデータ基盤の整理
- 今後の展望:
- 物流データ自体が商品になるとの認識のもと、「AIを使う時代」から「AIと考える組織」への転換を目指す
- 「30年の因習をAIと業務の力で解体する。100年の老舗が生成AIと共に転生していく物語はまだ終わっていない」と締めくくった