■ 1. 点群データとその特性
- 点群データの概要:
- ドローンやレーザースキャナーの普及により点群データという言葉の使用機会が増加
- 地形や森林、建物などの構造物を3次元の点の集合で記録したデータ
- 国土地理院は航空レーザー測量による計測点のデータを点群データとして公開
- 各計測点は緯度・経度・高さに加え、色情報、レーザー反射強度、地表・水部などの分類情報を保持
- 3次元空間に対応した多くの情報を持つため精緻な分析や解析が可能
- 活用分野:
- インフラ、建設、防災、都市計画で活用
- デジタルツイン、自動運転、XRなど先端ICT分野でも現実空間をデジタル空間に写し取る基盤データとして存在感を増している
- 国や自治体も3D都市モデルや地形の点群データをオープンデータとして公開・整備を推進
■ 2. データサイズに起因する課題
- 産総研地質情報研究部門の西岡芳晴の指摘:
- 森林整備や建設分野で国や県が点群データをオープンデータとして提供し活用が期待される一方、データサイズが大きく使い勝手が悪いという側面がある
- ファイル形式とデータ量:
- 点群データの業界標準ファイル形式はLAS
- バイナリ形式で保存し、数百万点規模で数百MB、都市規模では数十GBから数百GBに達することもある
- 具体例:
- 富士山山頂の火口付近1200×900mのデータの場合、地表面標高を数値データで表現するDEM(数値標高モデル)は約6MB
- 同範囲を3Dの点群データにすると3GBに達する
- 公開データをダウンロードする際、3GBのデータは時間がかかり処理も容易ではない
■ 3. 新フォーマット「点群PNG」の開発
- 開発の狙い:
- 西岡がこの課題への対応として新しいファイルフォーマット「点群PNG」を開発
- 富士山山頂の3GBのLASファイルは点群PNGで600MB弱に圧縮可能
- データ欠損のない可逆圧縮であり、約6分の1のデータ量とすることでダウンロード時間短縮などの使い勝手向上を目指す
- 画像ファイルで用いられるPNG形式であるため、ウェブブラウザーで扱いやすく、ウェブ上での3D表示にもつなげやすい
- 産総研の公開状況:
- 産総研は2025年10月1日に点群PNG ver.1.0を正式公開
- LASファイルより軽量で取り扱いが容易な形式として3Dデータ活用に向けた広範な利用を想定
■ 4. 開発の発端となった業務背景
- 西岡の本業:
- 地質調査総合センター地質情報研究部門に所属し、岩石学の観点から地質調査を行い地質図を作成する業務が本業
- シームレス地質情報研究グループで地質情報を一般公開する業務も担当
- 例としてつくばセンター近くの筑波山は上部が斑れい岩、下部が花こう岩で構成
- 情報地質学会の視点から地質情報と地形情報をウェブで発信する技術開発に取り組んできた
- 開発の経緯:
- データ量の多い点群データを活用しやすくするフォーマットについて相談があり、点群PNGを開発するに至った
■ 5. データPNGという発想と点群PNGへの適用
- データPNGの概念:
- PNGはPortable Network Graphicsの略で、ウェブで広く使われる可逆圧縮形式の画像ファイルフォーマット
- 西岡は数値を色に変換して画像として保存するというアイデアを持っていた
- 色はR(赤)G(緑)B(青)の値でそれぞれの色を表現し、各色256段階のフルカラーで1677万色を特定可能
- あるデータの数値をRGBで表現した色に置き換え、画像フォーマットを「数値の入れ物」として使う発想
- このアイデアを「データPNG」という概念として提唱し、1つの色で1つのデータの数値を表現
- 点群データへの適用例:
- 富士山山頂の標高3776.12mを「R=5、G=195、B=12」の黄緑に近い明るい緑色で示す方法がある
- 2次元の地図にデータPNGの考え方で標高に対応する色を指定すれば、cm単位まで標高を表現できるデータPNGファイルができる
- PNGファイルは可逆の画像圧縮が可能であり、ファイルフォーマットにデータ圧縮機能を付加せずにデータ量削減が可能
- この考え方を3次元の点群データに適用したものが正式公開した点群PNG
■ 6. 点群PNGの構造と圧縮の仕組み
- データ格納方法:
- 点のX・Y・Z座標や色、分類情報などを数値として保持し、それらを色に変換してPNGファイルに格納
- 2次元の画像として構成する際、X座標は最上部、Y座標はその下、Z座標は中央、色情報はさらに下部、分類情報は最下部というように同種のデータを近くに配置
- 同種のデータは近い数値を取るため似たような色が近傍に出現し、2次元の画像圧縮で高い圧縮効果が得られる
- 利用面のメリット:
- PNGの圧縮・展開機能はウェブブラウザーに標準実装されており利用可能
- ウェブブラウザーは画像表示の高速化に注力しているため、表示側ソフトウエアを開発せずに高速表示が可能
■ 7. 圧縮・高速化の実測結果
- 富士山山頂データでの比較:
- LASファイルで1,529MBだった点群データを点群PNG化することで7分の1以下の214MBに圧縮
- ロードに必要な時間は71秒から12.3秒へと約6分の1に短縮
- 効果の背景:
- データ量が小さくなることでサーバーから高速に転送できる
- 点群PNGの仕様は無料公開しており、サーバー側は画像ファイルを置くだけで特別な機能が不要なためコストがかからない
- 画像ファイルであるためGPUがあれば高速処理が可能
- 西岡はこれらの特性を「走・攻・守」の三拍子がそろったフォーマットと表現
- 用途変化への期待:
- 1分以上かかっていたダウンロードが12秒程度に短縮されることで点群データの使い方が変わる
- データをいったんダウンロードしてから使う用途から、ウェブブラウザーやウェブアプリでダウンロードしながら使う用途への変化
- アプリケーションの作り方や発想そのものが変わると西岡は見ている
■ 8. 普及促進のためのツール提供
- 普及の阻害要因:
- 標準規格ではないこと、知名度がないこと、扱えるツールが少ないことが現状の阻害要因
- 提供ツール(2026年1月時点で4種類、試験公開):
- 点群PNGヘルパー:
- LASファイルなど業界標準の入力を点群PNGに変換し、点群PNGファイルの作成を支援する
- 点群タイルメーカー:
- 大量の地図データを点群PNGファイルにする際、正方形に分割した点群PNGタイルセットとして出力する
- 点群タイルビューアー:
- 点群PNGタイルセットをウェブアプリとして表示する
- 点群ダウンローダー:
- 点群PNGで圧縮したファイルをLASなど他の標準的なフォーマットに展開して利用するためのツール
- 今後の方針:
- 点群PNGの正式公開を終え、今後はツールの改良と、ツール作成のために作成したプログラム類のオープンソース公開に注力
- 現時点では無料公開とし点群PNGの普及促進につなげる方針
- フォーマット自体はver.1.0で完成し、ツール提供と普及促進に力を入れる段階に移行
■ 9. 今後の展望と国際規格化への期待
- 用途の広がりへの期待:
- 大規模地震発生時、点群データを使った斜面災害の予測や分析において、現状の重いLASファイルでは迅速な利用が困難
- ウェブブラウザーやウェブアプリで使え、データ量の少ない点群PNGであれば短時間で分析が可能になる
- 適切な用途とのマッチングにより点群PNGを普及させられると西岡は考えている
- 広報活動と標準化への課題:
- 国際規格ではないことが普及の足かせになっていると西岡は感じている
- 現在は各県の森林担当者への案内や、地質・地球物理学・気象などの研究者への紹介を通じて利用を促進
- 日本でデファクトスタンダードになれば国際規格化の望みが出てくる
- 先端技術の社会実装を目指す産総研のポジションは点群PNGの国際規格化に有効と西岡は感じている
- 産総研内の他分野の研究者でも点群PNGの試験的な利用が始まっている
- 応用分野の広がり:
- 地質や測量の世界だけでなく、地理空間を扱う自動運転など多分野での応用可能性が高い
- 都道府県レベルでは森林分野に限らず、都市部の防災、減災、都市計画などにも利用可能
- スケールを調整すれば歯型など3Dデータの記録にも応用できる
- 点群を専門家の道具から社会の素材へと変化させる力を点群PNGは持つ