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スクラムの「うまくいかない」はなぜ? 組織や関係性に隠れた課題を探る

要約:

■ 1. スクラム道関西の背景と状況の変化

  • スクラム道関西は2012年設立、170回以上のオープン・ジャムを開催してきた関西のスクラム・アジャイルコミュニティ
  • 設立の動機は「学ぶ場がなかったため自ら作る」というシンプルなもの
  • アジャイル・スクラムの認知度は大幅に向上し、企業の新卒研修への組み込みなど組織主導での推進が増加
  • 悩みの変化:
    • 2010年代: 個人が手法を学び「どう始めるか」を模索する段階
    • 現在: 組織として推進しているが「期待される効果をどう出すか」という実践フェーズの悩みが中心に

■ 2. 表面的な問題の背後にある根本原因

  • 相談に寄せられる問題の傾向:
    • 初期: 「デイリースクラムが15分で終わらない」などプロセス上の問題
    • 近年: チームの内外関係、ステークホルダーとの関わり方、組織・SMやPOが機能しないといった広範な問題
  • 表面的課題への対処だけでは本質的解決に至らない
    • 一つの問題を解決しても、チームの状態が改善されなかったり、別の問題が次々と発生するケースが多い
  • 「デイリースクラムが15分で終わらない」を掘り下げた例:
    • 計画が立てられていない
    • プロダクトの目的を理解しておらず、会話のたびに背景説明が必要
    • 納得感のあるプロダクトバックログアイテムが整っていない
  • 深掘りのアプローチ: 「なぜ困っているのか」「根本原因は何か」「本当に問題なのか」を対話しながら明らかにすることが必要

■ 3. スクラムマスターへの誤解と組織構造の問題

  • 組織がアジャイルを推進したいと言いながら体制が伴わないケース:
    • 推進できる体制が整っていない
    • 推進する側がアジャイルの十分な知識を持っていない
    • トレーニング等への予算配分がなく組織としてのサポートがない
  • 相談者と組織との間に期待値のギャップがあるまま進行することで、状況がさらに困難になる
  • POに決定権がない問題:
    • 個人の問題ではなく、開発部隊とマネジメント部隊が分断された組織構造に起因
    • 「考える役割」と「作る役割」の構造的分断により、チーム全体でプロダクトを考えながら作る協働のスタートラインに立つことが難しい
  • スクラムマスターの成果が見えにくい問題:
    • エンジニアやPOに比べアウトプットが分かりづらく、期待値のすり合わせがないと立ち位置が崩れやすい
    • SMの本来の役割はサーバント・リーダーとして、チームが自律的に動けるよう一歩引いて支援すること
    • クリティカルな質問の投げかけやステークホルダーとの対話支援など、表に見える成果物として残りにくい活動が中心
    • 対策: レトロスペクティブ等でSMの考えや活動を共有し、チームと目線を揃えることが重要

■ 4. 「ブリリアント・ジャーク」問題とラベリングの危険性

  • 「チームにブリリアント・ジャークがいて困っている」という相談も、一見個人の問題に見えて実際は組織的課題
    • 特定人物への業務集中やその人がいないと回らない状態は、組織の脆弱性の表面化と捉えられる
  • 研究(Felps et al. 2006)によれば、悪影響のあるコミュニケーションをとる人が一人いるだけでチームの成果が著しく損なわれる
    • 例外として、質問を投げかけ、全員を巻き込み、対立を和らげるリーダー役のメンバーがいたグループは成果が落ちなかった
    • 問題は「その人がいるかどうか」だけでなく、周囲の関わり方によっても変わりうる
  • ラベリングへの警戒:
    • 特定の行動が生じた文脈を確認せずにラベルを貼ると、見方が固定されるリスクがある
    • 「静かに仕事をしたいだけ」の人が「空気が読めない」と見られるケースもある
    • 問題に名前をつけることで分かった気になれるが、裏には関係性のズレ・期待値の違い・組織の構造が隠れていることが多い
  • 求められる姿勢:
    • ラベルで片付けるのではなく、見方そのものを問い直すこと
    • 各メンバーの特性を踏まえた上で、チームとしてどう機能するかを互いに考えること

■ 5. 「うまくいかない」ことの積極的意義

  • スクラムはプロジェクト成功を保証するものではなく「問題を発見するフレームワーク」であり、問題を解決するのは人
  • スクラムを導入すると隠れていた問題が表面化する、その気づき自体が財産
  • 「問題が次々と出てきてうまくいかない」現場ほど、スクラムが効果的に機能している証拠
  • 早期に問題を発見できること自体がチームにとって大きなメリット(後になって噴出するより手の打ちようがある)
  • 毎回全てがうまくいっているチームの方が不自然であり、複雑な問題ではなく解決しやすい問題に取り組んでいる可能性がある
  • ネガティブな発言を許容できる場の重要性:
    • 「疲れた」「しんどい」と言えない場では、負の重力がかかって本当に苦しくなる
    • 「うまくいっていない」「失敗した」と言い合える状況から、対話・分析・学習へとつなげることが大切
  • スクラムの本質: 検査と適応を繰り返してプロセスの問題を浮かび上がらせるフレームワーク、衝突回避を目的とした馴れ合いとは異なる

■ 6. 実践者へのメッセージ

  • コミュニティの活用:
    • 失敗を恐れず新しいことに取り組み、結果をコミュニティに持ち寄ることで知見を得る
    • 社内のコンテキストを理解できる仲間とスクラムガイドを読み、共に戦う仲間を作る
    • 同様のロールで働く他社の人とのコミュニケーションも重要
    • コミュニティには「一緒に考えてくれる文化」があり、それ自体が価値
  • 目的を問い続けること:
    • スクラム・アジャイルをやること自体が目的ではなく、その先に「良いものを楽しく作りたい」「誰かの役に立つものを作りたい」という実現したいことがある
    • やりながら「何のためにやっているのか」を問い続けることが重要
  • 許容可能な損失の積み重ね:
    • 人は大きな損失を避けたがるが、アジャイル・スクラムのメリットは「これくらいなら失敗しても痛手ではない」という許容可能な損失を積み重ねられること
    • 小さな検査と適応を繰り返すことで多くの道が見えてくる
    • プロダクト開発だけでなく、人生においても程よいチャレンジを意図的に重ねることが推奨される