■ 1. トロンの概要
- 東京大学助手だった坂村健(現東大名誉教授)が1984年に開発した日本発の国産OS
- パソコン専用OSではなく、家電製品やオフィス機器に組み込まれた小型コンピューターを含む、幅広いコンピューターを動かすための基本ソフト
■ 2. 開発の背景
- 超小型コンピューターの台頭:
- 当時、コンピューターは企業が社内に設置する大型機が主流だったが、1個の半導体に収まる超小型コンピューターも登場していた
- 世間には超小型コンピューターを性能面で劣る「おもちゃ」とみなす見方もあった
- 坂村の見立て:
- 坂村は、超小型コンピューターが今後あらゆるモノに組み込まれるようになると考えていた
- モノに組み込まれる世界が来れば、それを動かす土台となる基本ソフトが必要になる
- この考えからトロンを開発した
■ 3. 坂村の思想的動機
- 米国依存への問題意識:
- 戦後のコンピューター業界では米国勢が圧倒的な強さを誇り、日本のコンピューター産業は米国製品に大きく依存していた
- 坂村には、世界に通用するソフトを日本から送り出したいという思いがあった
- 超小型コンピューターへの着目:
- 米国と同じ土俵で戦っても勝てないが、これから到来する超小型コンピューターの世界であれば日本人でも戦えるという読みがあった
■ 4. 無料公開という決断
- 業界の常識:
- 当時のコンピューター業界では技術を囲い込むのが当たり前で、無料公開という発想自体が珍しかった
- 坂村の選択:
- 坂村はトロンを無料で公開し、誰でも自由に使用・改良できるようにした
- この手法は今でこそ「オープンソース」と呼ばれ定着しているが、当時としては異例だった
- 坂村は、トロンを未来の社会インフラにするには誰でも自由に使えるようにする必要があると考えていた
- マイクロソフトとの対比:
- マイクロソフトはパソコン向けOSを独占し、日本のパソコンメーカーから利用料を取っていた
- 坂村の無料公開路線は、こうしたマイクロソフトの姿勢とは対照的だった
■ 5. 日本メーカーの参画と松下電器の動き
- 賛同企業の広がり:
- 坂村がトロン計画を発表すると、富士通、日立製作所、三菱電機、NECなど、その思想に共鳴した日本メーカーの技術者が続々と計画に参加した
- 各社はトロンを家電などに搭載し始めた
- 松下電器のパソコン開発参入:
- トロンは機器向けOSとして開発されたが、消費者向けに作り込めばパソコンOSとしても使用可能だった
- マイクロソフトOSを用いたパソコン開発で出遅れていた松下電器産業(現パナソニックホールディングス)は、国産OSによる巻き返しを狙い、トロンを使ったパソコン開発に乗り出した