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なぜ、ITの職場において低スキル者を排除することが成功のために重要だと誰も言わないのか?

要約:

■ 1. 本稿における排除の定義

  • 排除の意味:
    • 高い認知負荷を伴う仕事に適性を満たさない人を置かないという配置上の判断
    • 対象となる仕事は要件定義、設計、顧客折衝、品質判断、技術的意思決定、レビュー承認
    • 人格の否定や社会からの追放とは別の話
  • 低スキルの核心:
    • 作業速度の遅さではなく、自己修正能力の欠如
    • 自分の誤解を検知できない、指摘を吸収できない、分からないと言えない状態
    • この軸を先に定義するのは、排除の基準として実際に運用できるのがこの軸だけだから
  • 書物と職場の断絶:
    • 優秀な人だけを採るべきだという主張は海外の技術書や経営言説では定番
    • 一般論として語ることと、目の前の同僚について語ることの間には深い断絶がある
  • 幻想の危険:
    • チームワーク、育成、多様性、心理的安全性はいずれも本来大切なもの
    • そこに誰でも同じ仕事に参加できる、能力差は努力と支援で吸収できるという幻想が混ざると職場は静かに壊れる
  • 能力不足の波及:
    • 誤解したまま進める、曖昧な仕様をさらに曖昧にする、確認を怠るという形で組織全体に負債が発生する
    • 低スキル者は生産性が低い人である以前に、周囲の生産性を下げる人になる

■ 2. 人数を足しても成果が足されない構造

  • 労働集約型との性質の違い:
    • 手順化された作業や定型的な検証では人数を増やせば処理量は増える
    • 要件定義、設計、実装方針の決定、障害解析、認識合わせでは人数と成果が比例しない
  • 理解の浅い人が増やす総量:
    • 説明、確認、誤解の修正、厚いレビュー、会議が必要になる
    • 本人の手直しだけでなく、その人が生んだ不確実性を周囲が吸収する必要が生じる
  • 成果物の相互依存:
    • 設計書、ソースコード、試験仕様、課題管理表、議事録、顧客説明資料は相互に依存している
    • 要件の誤解は設計、実装、試験観点のずれを経てリリース後の障害につながる
  • チーム全体への影響:
    • 低スキル者が一人入るだけでチーム全体の認知負荷が上がる
    • 優秀な人は理解の補助、誤りの検知、手戻り防止、顧客や上司への説明を背負わされる
    • 高度な知的作業では能力不足が周囲の成果を減らす方向に働く

■ 3. 問題の本質としての認知負債

  • 作業が遅いだけの問題との区別:
    • 遅いだけなら納期の余裕、作業範囲の限定、手順書の整備で対応できる場合がある
    • 真の問題は理解の質が低く、誤解を検知できず、分からないと言えない人
  • 認知負債の定義:
    • 理解不足や判断ミスが周囲の理解、確認、修正、説明の負担として蓄積すること
    • 技術的負債が開発速度を下げるように、認知負債は組織の判断速度と実行速度を下げる
  • 無自覚な場合の厄介さ:
    • 理解したふりをし、仕様の前提を確認せず、指摘を表面的に直して同じミスを繰り返す
    • 周囲は成果物だけでなくその人の認識そのものを監視しなければならなくなる
  • 発覚の遅さ:
    • ソースコードの誤りは差分で見えるが、要件理解の誤りはすぐには見えない
    • 設計意図の誤解は後工程で発覚し、顧客との認識齟齬は議事録に残らないこともある
  • 負債の移転:
    • 優秀な人は誤りを見抜けるため放置できず、責任感のある人ほど穴を埋めようとする
    • 包摂しているように見える職場は、優秀な人と真面目な人に負債を移転しているだけ

■ 4. 決定的な軸は自己修正能力

  • 技術知識や経験年数は決定的でない:
    • 技術力が高くても、説明を怠り属人化を放置し指摘を撥ねつける人は同じ負債を生む
    • 過剰設計で周囲の理解を阻む人も同様
    • 理解が遅くても指摘を吸収し誤解を申告する人は負債をほとんど生まない
  • 自己修正能力の内容:
    • 自分の理解と現実のずれを検知できるか
    • 指摘に防衛でなく吸収で応じられるか
    • 分からない状態を分からないと申告できるか
  • 誤りの滞留時間:
    • この能力がある人の誤りは早期に収束し、ない人の誤りは組織の中を伝播する
    • 認知負債の量を決めるのは誤りの量よりも誤りの滞留時間
  • 世間のスキル観との差:
    • 技術に詳しい認知負債発生源も、経験の浅い優良な学習者も存在する
    • 重要工程から外すべきなのはこの軸で低い人

■ 5. 観測可能な兆候による判定

  • 実行可能性への疑問:
    • 認知負債は後工程で発覚し進捗表にも現れないため、事前に見抜けるのかという疑問が返る
    • この疑問に答えられない排除論は実行不能な正論にとどまる
  • 損害は遅く兆候は早い:
    • 指摘に防衛で返すか吸収で返すか、同じ誤りを繰り返すか減らすか
    • 質問をするかしないまま進めるか、分からないと言えるか言えないか
    • これらは数週間の単位で観測できる事実
  • 予言でなく観測:
    • 配置判断は将来の損害を予言する行為である必要がない
    • 指摘への反応、誤りの反復、申告の有無という記録は印象論と違って突き合わせが可能
  • 内面に依存しない基準:
    • 自分には見えるという自己申告は、誰がしてもそれ自体では根拠にならない
    • 価値があるのは見える側を自称することでなく、兆候を記録し突き合わせること

■ 6. 育成と重要工程への投入の分離

  • 両者は別問題:
    • 人は育てるべきだが、育てるために重要工程を壊してよいわけではない
  • 影響範囲の制御:
    • 学習機会は影響範囲を制御したうえで与えるべき
    • いきなり要件定義の主担当、顧客折衝、レビュー承認者にするのは育成の名を借りたリスク移転
    • 小さな作業を任せ、フィードバックを与え、理解を確認し、徐々に責任範囲を広げる
  • 実戦で育てるという言い分:
    • その実戦の損失は多くの場合、顧客と後工程と優秀なメンバーに押しつけられる
  • 兆候は育成投資の基準:
    • 指摘を吸収し同じミスを減らし、分からないと言える人は育つ
    • 指摘を防衛で返し、誤解を検知できず、説明を受けても同じ地点に戻る人は育成コストが膨大
  • 区別なき育成論の不誠実さ:
    • 本当に育てたいなら重要工程と学習工程を分けるべき
    • 育成の名目で重要工程を壊すことは本人にも周囲にもよくない

■ 7. 頭のいい人が語らない理由

  • 最大の理由は角が立つこと:
    • 単なる臆病さではなく、言ったときに何が起きるかを理解している
  • 予想される反応:
    • 冷酷な人間だと思われ、育成放棄と受け取られ、多様性の否定に見られる
    • パワハラ的だと受け止められ、上司や人事から扱いにくい人間だと思われることもある
  • 後始末の押しつけ:
    • どう育てるのか、どう配置するのか、本人にどう伝えるのかが指摘した側に返る
    • 現実を指摘しただけで面倒な調整役にされてしまう
  • 戦略的沈黙:
    • 本当のことを言っても組織が正しく動くとは限らない
    • 黙って自分の仕事をする、危険な人に重要な仕事を渡さない、裏でリスクを吸収する、転職するという選択に至る

■ 8. 低スキル者が認めない理由

  • 非対称性:
    • 能力の高い人は構造が見えているため沈黙の理由が角が立つことに収束する
    • 能力の低い人は構造が見えていないこと自体が問題の一部であり理由が多岐に分岐する
  • 排除される恐れ:
    • 自分の居場所を脅かす主張であるため道徳的な言葉で反論する
    • 助け合うべき、切り捨ててはいけないという形で職務適性の問題を倫理の問題にすり替える
  • 被害の未経験:
    • 高度な仕事を経験しておらず、要件の齟齬や設計の破綻が組織を壊す感覚が分かりにくい
  • 理解不足の非検知:
    • 本気で分かっているつもりであるため、厳しく指摘する人を冷たい人だと感じ議論が成立しない
  • 沈黙の質の違い:
    • 正しく理解している人の沈黙は戦略に近く、理解できていない人の沈黙は状態に近い
    • 誰が見えているかは指摘への反応と誤りの反復という観測可能な事実で判定できる

■ 9. 管理者が語りたがらない理由

  • 自らの失敗の承認になる:
    • 低スキル者が重要工程にいることは、誰かが採用し、配置し、任せ、評価した結果
    • 認めることは採用、配置、評価、契約管理の失敗を認めること
  • 責任の曖昧化:
    • 本人に努力を求め、周囲に支援を求める
    • コミュニケーション不足や資料の整備不足の話にして根本の配置問題を避ける
  • 見えやすい指標への依存:
    • 現場の複雑さを理解できない管理者ほど人数、稼働率、進捗率に頼る
    • 認知負債は進捗表に出にくく、見抜けないまま、できる人に負担が集中する
  • 眼力でなく意思:
    • 指摘への反応と誤りの反復の記録を見ることは高度な認知能力を要求しない
    • 見抜く力の不足は記録を見る作業で補える
  • 先送りの構造:
    • 配置転換には本人への説明、顧客調整、契約処理、チーム内の感情処理が伴う
    • 面倒を避けたい管理者はもう少し様子を見ようと先送りし、その間に生産性が落ちる

■ 10. 人事語彙による現実の隠蔽

  • 語彙の本義:
    • 多様性は視点と背景の構成の話であり、職務適性の免除規定として使われた瞬間に機能を失う
    • 心理的安全性は率直な指摘を可能にする条件であり、指摘しない口実に使われると自己矛盾に陥る
    • チームワークは相互に信頼できる成果物の上に成立し、負債の固定的な移転とは別物
  • すり替えの典型:
    • 外すべき場面でも支援が足りない、仕組みで解決すべきだという話に変わる
    • 仕組みで吸収できる能力差には限界がある
  • 標準化の限界:
    • ITには標準化が有効な領域と、個人の理解力が決定的に重要な領域がある
    • 区別せずすべてを仕組みで解決しようとすると仕組み自体が複雑化する
    • 低スキル者のための手順、チェックリスト、会議、承認フローが組織全体の速度を下げる
  • 語彙の両義性:
    • 人事語彙は適切に使えば職場をよくする
    • 現実を直視しないために使われると職場破壊の言い訳になる

■ 11. 美談がもたらす誤り

  • 一人の手という美談:
    • 本田路津子のフォークソングが語る、一人ではできないことも皆でならできるという考え方
    • 社会倫理としては大切であり、弱い人を支える仕組みも必要
  • 重要工程への持ち込みの誤り:
    • 職場の協力は能力差を無限に吸収する魔法とは違う
    • 協力の成立には最低限の理解力、責任感、自己修正能力が必要
    • 同じチームで働くとは、同じ前提を理解し同じ目的に向かい互いの成果物を信頼できる状態
  • 協力でなく一方的補助:
    • 前提を満たさない人がいる場合に成立するのは協力でなく周囲による一方的な補助
  • 負担の所在の不可視化:
    • みんなで支えようという言葉は優しく聞こえるが、支える側と支えられる側が固定される
    • できる人が説明し確認し修正し責任を取る状態を放置すると職場は公平でなくなる
  • 本当の協力:
    • その人に合った仕事を与え、学習可能な範囲で育て、重要な判断は適性のある人に任せること
    • 社会的包摂と職務上の配置制限は両立する

■ 12. 排除しない職場では優秀な人が去る

  • 最初に壊れるもの:
    • 成果物ではなく、優秀な人と真面目な人の意欲
    • 優秀な人は他人の誤りの検知、修正、説明を背負い、真面目な人は余計な責任を負う
    • 組織がチームで支えていると言う一方で、できる人ほど損をする構造になる
  • 離脱の過程:
    • 優秀な人は沈黙し、自分の担当範囲だけを守るようになり、やがてよりよい職場へ移る
    • 残るのは問題に気づかない人、気づいても動かない人、負債を押しつけられて疲弊した人
    • 排除しないことは優しい選択に見えて、優秀な人を排除しているのと同じ結果を生む
  • 本人への憎悪の否定:
    • 問題は職務に合わない人を重要な場所に置き続ける配置の失敗
    • できない仕事を任され成果を出せない本人もある意味では被害者
    • 排除は冷酷さでなく職場設計の責任であり、任せてよい仕事と任せてはいけない仕事を分ける

■ 13. 書棚と会議室の距離

  • 活字での既出:
    • ジョエル・スポルスキの「Joel On Software」は優秀な人だけを採るべきだと公然と主張した本
    • 海外の技術書や経営言説ではこの種の主張が繰り返し語られてきた
    • それでも日本の職場の会議室では誰も言わない
  • 経験による裏づけ:
    • 新人の頃に読むと少し極端に見え、半信半疑になるのは自然
    • 顧客に怒られ、仕様の誤解や手戻りや後始末を経験すると、思想でなく経験則だったと分かる
  • 経験が教えるもの:
    • 人を見下す快感とは無縁のもの
    • 苦労して伸びる人と同じ地点を回る人、指摘を吸収する人と防衛だけする人の違い
    • 教えられるのは誰が下かでなく、自己修正能力の兆候の見分け方そのもの
  • 固有名詞の壁:
    • 活字が一般論として教えたことを、経験が固有名詞つきで裏づける
    • その固有名詞について職場で語ることだけは誰にもできない

■ 14. 語られないからこそ重大

  • 沈黙の理由:
    • 言う側に利益が少なく、言われる側に不利益が大きい
    • 管理者に責任が返り、人事語彙とも相性が悪い
  • 補助輪としての管理強化:
    • 外せない職場では標準化、会議、チェックリスト、進捗管理、報告資料が増える
    • 管理の高度化に見えて、低スキル者を重要工程に置き続けるための補助輪である場合がある
  • 低い水準への平準化:
    • 標準化や手順化そのものは非競争領域や定型作業で有効
    • 能力不足を隠すための標準化は職場全体を低い水準に合わせる
    • 優秀な人は余計な手続きに縛られ、低スキル者は本質を理解しないまま手順をなぞる
  • 難度と能力の対応:
    • 高度な抽象化が必要な仕事にはそれができる人を置く
    • 学習中の人には影響範囲を制御した仕事を与える
    • 自己修正の兆候が見えない人には重要工程を任せない
  • 歪みの帰結:
    • 理解力の低い人を重要な場所に置くと、成果物の品質だけでなく組織の認識そのものが歪む
    • 人が増えても進まない職場、会議ばかり増える職場、優秀な人ほど疲れる職場はこの問題を抱えている

■ 15. 結論

  • 職務適性の問題:
    • 低スキル者を重要工程から排除することは職場づくりのかなり重要な条件
    • 人は社会から排除されるべきではないが、すべての人がすべての職務に参加できるわけでもない
  • 定義と判定の要点:
    • 低スキルとは自己修正能力の欠如であり、誤解を検知できず指摘を防衛で返し同じ地点に戻り続ける状態
    • 損害は後工程まで見えなくても兆候は最初のレビューから見える
    • 排除の判断は予言である必要がなく、記録された兆候の突き合わせで足り、育成投資の基準にもなる
  • 沈黙の三層:
    • 頭のいい人は角が立つことを理解して黙る
    • 低スキル者は恐れや経験不足や認知不足から認めない
    • 管理者は自らの配置の失敗を認めたくないために避ける
    • 人事語彙と美談が職務適性の問題を道徳の話にすり替える
  • 必要な職場設計:
    • 職場は美談では動かず、ITの仕事は人数でなく理解の質によって進む
    • 協力には最低限の能力が必要であり、育成のために重要工程を壊すことは許されない
    • 心理的安全性は低品質な仕事の見逃しを意味しない
    • 重要工程には適性のある人を置き、低スキル者には影響範囲を制御した仕事を与え、育つ兆候のある人には育成機会を与える
  • 前提を認める意義:
    • 言えば角が立つ現実ほど組織の根本に関わる
    • 判断を避け続ける職場は優しさを装いながら、できる人に負債を押しつけ、最後には顧客と組織自身が損をする
    • この厳しい前提を認めて初めて、育成も協力も標準化も心理的安全性も本来の意味を持つ