■ 1. Project OTの全体像
- Project OTの発足:
- 2026年1月にハワイの邸宅で開かれた年次リーダーシップ合宿で、ザッカーバーグと側近が構想した組織変革計画
- Organization Transformationの略で、FacebookとInstagramの所有企業に「AIネイティブ」な未来を描く
- 人間の業務のAIへの置き換え:
- 数千人の従業員が日々担う業務の多くをAIが引き継ぐ構想
- 仮想の労働者を、より小規模で「talent-dense」な人間の精鋭集団が社内で監督する形
- 最大60%の人員削減シナリオ:
- シナリオプランニング演習で、全社の多くのチーム規模を最大60%削減する案を検討
- 一部の従業員は新設部署の役職を提示され、残りはレイオフの対象
- 3年前を上回る規模の想定:
- 人事幹部は、3年前の約25%の削減と同等かそれ以上の規模になると見積もった
- 2波構成の再編計画:
- 5月の第1波の粛清に続き、11月に第2の組織改編を行う二段構え
- レイオフに加え、募集中ポジションの閉鎖と、低評価とみなした人材の追い出しで補完
- 直前での撤回:
- 5月19日の夜、第1波のレイオフ実施の数時間前にザッカーバーグが翻意
- 翌日に従業員の10%のレイオフは実施したが、11月の削減計画は取りやめ
- 撤回時点の社内状況:
- 従業員は公然と反乱状態にあり、AI変革が自分たちの置き換えを一部狙っていると確信していた
- 戦略の中核である自律型AIエージェント技術が期待した生産性向上をもたらしていないと社内データが示していた
- 巨額のAI支出に見合う成果を投資家の一部が問い質していた
- 取材の基礎:
- 多数の社内文書、投稿、録音と、社内事情を知る20人超との対話に基づく
- 未解明の点:
- ザッカーバーグの方針転換を引き起こした直接の要因は特定できていない
- 人員構成の再編について現在どのような計画があるかも不明
■ 2. Metaの公式見解
- Project OTの存在の認定:
- コスト削減、チーム構造の再設計、新重点領域への人員移動に注力した1年間のプロジェクトと説明
- 新重点領域の例として、AIモデル用の訓練データ生成を挙げた
- 2波構成と60%削減の認定:
- 最も抜本的なシナリオでは一部チームの規模を最大60%縮小する内容だったと認めた
- 対象部署の特定は拒否し、いくつかの主要部門は対象外だったと説明
- 全社の60%解雇の否定:
- シナリオにはレイオフと再配置の双方が含まれ、全従業員の60%を解雇する意図は一切なかった
- 第2波中止の時点:
- 全体で何人が職を失うかを確定する前に、経営陣が第2波の計画を取り消した
- 演習という位置づけ:
- 再配置、募集ポジションの閉鎖、削減の潜在的影響を検討するシナリオプランニング演習を一部チームに依頼したもの
- 結果として数千人が新設チームの優先業務へ異動した
- 演習の全シナリオを実行したわけではなく、実行を前提としてもいなかった
■ 3. AIネイティブ思想の流入
- 生成AIへの期待:
- 2022年末のChatGPT公開以降、シリコンバレーの経営者は生成AIが解き放つ働き方の革命的可能性を思い描いてきた
- エージェント技術の位置づけ:
- 質問に答えを返すだけのチャットボットと異なり、買い物、旅行予約、アプリ作成などの自律的行動を担う新興技術
- 「AIネイティブ」への傾倒:
- 既存プロセスにAIを組み込むのではなく、完全にAIネイティブへ移行すべきというスタートアップ発の発想に幹部が魅了された
- Project OT文書は、AI対応のツールとエージェントが相互作用し、ワークフローが自動化され、新規開発はAIファーストになる姿を描いた
- AIエージェントの外販:
- 予約調整や成約などの業務を担うAIエージェントを他社に販売する構想も戦略に含む
- アジア視察:
- 最高データ責任者アレックス・シュルツと製品責任者ナオミ・グレイトが昨年アジアを訪問
- 現地スタートアップがAIを軸に組織図を構築している点を高く評価した
- 独自調査とパイロット:
- AIスタートアップの組織編成に関する独自研究を委託
- 社内で「AIネイティブ」が何を意味するかを見極めるパイロットを設置
- グレイトの説明:
- シンガポール拠点で相当の時間を過ごし、その慣行がカリフォルニアとニューヨークのチームを触発した
- アイデアの多くはボトムアップで、一部の従業員は自ら変革を実装し始めていた
■ 4. パイロットと「AI-Native Playbook」
- アーチボンによる先行実験:
- 製品管理担当バイスプレジデントのイメ・アーチボンが昨年7月、製品開発を近代化する第一歩を社内投稿で公表
- バスケットボールの比喩:
- 速攻を取り入れればより多く、より良いシュートが打てるのと同じで、AIツールは低コストかつ高忠実度で多くのアイデアを探索させる
- AIで素早く作った試作品は従来より完成品に近づく
- 単に楽しいだけでなく、AIファーストの時代にはそれが勝つ戦略である
- 経営トップの同調:
- ザッカーバーグも半年後の決算説明会で、AIが仕事をずっと楽しくする可能性に言及した
- 「small tech pod」の構成:
- エンジニア2〜3名とデザイナー1名にAIツールを持たせた5つのポッドを設置
- 6か月の固定計画サイクルなど確立された製品リリース手順を廃止
- 4週間の「スプリント」で試作品を作ることを目指す
- 「builder」への職種統合:
- 10月の社内投稿「AI-Native Playbook」が、他チームが移行するための指針を提示
- 製品デザイナーやエンジニアの伝統的職務は消滅し、ポッド構成員は「builder」という汎用の肩書きを得る
- 中間管理層は排除され、ポッドは単一の上位ユニット長へ直接報告する
- エージェント支援の優先順位付け:
- 日々の優先順位設定を「Agent-assisted analysis」が支援する
- 展開状況:
- 年初にザッカーバーグがProject OTを始動させ、管理構造の変更を進めるよう幹部に指示
- 6月までにエンジニアリングや研究を含む11以上のユニットが小規模ポッドを導入
■ 5. 新しい組織構造と人事運用
- チーム構成の対比:
- 従来の製品開発は10〜20名で、役割ごとに期待が明確な専門分化型
- AIネイティブ型は3〜5名で、必要な作業を何でも担う流動的な役割と、方向づけを担うリード1名で構成
- デザイン、UXR、データサイエンス、データエンジニアリング、機械学習の専門職はポッド横断でプール
- 組織階層の対比:
- 従来は少数の大きな柱の下に大きなチームが連なる多層のヒエラルキー
- 新型はより平坦で機動的な多数の小ポッドが、同等以上の領域をカバーする
- 「village approach」:
- 人事評価と昇進は「Org Lead」と呼ばれる上位ユニット長が決定
- 人事担当者と、内容が明示されない「AIシステム」がその決定を支援する
- ユニット長1人が30〜50人を統括する
- Pod Leadの権限:
- 小ポッドの日々の運営を担うが、正式な人事管理権限は持たない
- 現場の混乱:
- ポッド管理を任された社員が、管理職研修も評価ツールへのアクセスも与えられていないと社内掲示板に投稿
- 評価主体に関するMetaの説明:
- 各チームがより機敏になる方法をさまざまに実験したと説明
- 「AIシステム」への言及の説明は拒否し、評価と昇進の決定はAIではなく人間が行っていると主張
- 「Irreplaceable Talent」ツール:
- 代替不能な人材を特定する新しい人事ツールを同時期に導入
- 10人分の働きをするという「10X Performer」の仮想像を提示した
- 極めて優秀な個人がチーム全体分の仕事をこなせるとAI信奉者が信じる中で、この古い型が再び流行している
- レイオフ原資の再配分:
- 削減で得た資金の一部を、特にAIエンジニアリングの花形人材を獲得し引き留めるための巨額報酬に充てる意図
■ 6. 従業員の反乱
- 報道による発覚:
- 3月13日、副社長級の多くがProject OTの説明を受ける前に、20%以上に及びうるレイオフ計画が報じられた
- 2022年末から2023年初めに約25%を削減した前例があり、同規模は初めてではない
- 情報漏れへの反応:
- 現場は動揺し、まだ知らされていないはずの削減が露見したことでザッカーバーグは苛立った
- 幹部は反発への備えができていなかった
- 広報担当者は当時、理論上のアプローチに関する憶測記事と切り捨てた
- 経営陣の火消し:
- 記事を現場と議論せず、上級管理職には静かに否定
- AIによって役割が「進化する」と部下へ伝えるよう指示するトーキングポイントを用意
- 4月の追加報道:
- 5月20日の第1波で約10%を削減し、下半期にさらに人員を減らす方針が報じられた
- Metaは10%削減を社内で認め、ザッカーバーグは巨額の設備投資が理由だと従業員へ説明
- 訓練データ生成への配置転換:
- 一部エンジニアを新設のApplied AI Engineeringへ異動させた
- AIモデルのコーディング能力を高める訓練データとして、ソフトウェア工学のパズルを作らせた
- 多くの社員がこの作業を機械的で退屈だと社内投稿で揶揄した
- 再配置の成果に関するMetaの主張:
- 再配置は成果を出し始めており、同ユニットが生んだデータが先月公開したAIモデルの訓練に役立った
- 人員の減少幅:
- 一部のエンジニアリングユニットでは、異動と削減により5月末までに人員が最大30%減少
- キーストローク追跡の義務化:
- 米国従業員の端末に追跡ソフトの導入を義務づけ、キー入力とマウスクリックを取得
- 人間のコンピュータ操作をAIエージェントに再現させるための訓練が目的
- Workplaceでの抗議:
- 自分のAI後継者を訓練させられているかもしれないと考え、レイオフの説明不足にも憤った
- 社内ネットワークWorkplaceが怒りの長文と自虐的な冗談で溢れた
- 象の画像による皮肉:
- 幹部の社内投稿に対し、レイオフが「部屋の中の象」であることを示す象の画像で返信
- 幹部との衝突:
- AI変革を統括し投稿で擁護していたCTOアンドリュー・ボズワースと社員が直接衝突
- 中小企業向けAI施策の告知を、人類に火を与えたプロメテウスになぞらえて皮肉る者もいた
- 士気の低下:
- 半期のPulse調査で、社内の従業員感情の指標が肯定的74%から55%へ低下
- 労働組合結成の動きが勢いを増した
■ 7. AI技術の期待外れ
- コード量と成果の乖離:
- AIの利用で生成されるコード量は激増したが、生産性への効果は疑わしい
- 社内の開発基盤とインフラへのコード変更は前年比220%増
- 一方、ユーザーに届く新機能や改良につながった変更は36%増にとどまった
- 信頼性の警告:
- 3月時点でインフラチームが、AIコーディングの急増による「信頼性の警告サイン」を指摘
- 暴走するエージェント:
- 4月の投稿は、制御されないAIエージェントが人間なら実行しない大規模かつ破壊的な操作を行っていると報告
- インシデントの急増:
- サービス障害やデータ漏洩の可能性を含む重大な技術・セキュリティ事案が前年比40%増
- その対応に費やす時間は70%増
- 顧客サポートボットの悪用:
- 6月初旬、新しいAI搭載の顧客サポートボットをハッカーが悪用し、著名Instagramアカウントへ侵入
- 休眠状態のオバマ政権ホワイトハウスのページも被害を受けた
■ 8. 方針転換と沈静化
- 第2波の中止:
- 5月20日の第1波実施の数時間前にザッカーバーグが側近と再度協議し、11月に予定した第2波を取り消した
- 安定の約束:
- 通知後、今年これ以上の全社的レイオフは想定していないとWorkplaceに投稿
- 従業員により大きな「安定」を与えたいと表明した
- 士気回復策:
- ユニット長に対し、従業員の感情を受け止めるよう促した
- マウス追跡プログラムを一時停止した
- 新AIエンジニアリングユニットの一部社員に元のチームへの復帰を認めた
- 最高財務責任者スーザン・リーを福利厚生の拡充に投入した
- 待遇改善の具体策:
- レイオフ後の数週間、共感を示す幹部の投稿がWorkplaceに相次いだ
- オフィスのマイクロキッチンの軽食の質向上を約束した
- 出張費と社交イベント費の増額を約束した
- タウンホールでの釈明:
- 7月初旬に社内タウンホールへ不意に登場し、組織改編のタイミングを読み違えたと認めた
- AIエージェント技術は想定したほど加速しなかった
- 今後3〜6か月で技術は改善し、より多くの便益を示し始めると期待している
■ 9. 「betting on people」への転回
- 広報攻勢:
- 社内AI変革の最も破壊的な部分を後退させる一方、人間中心の企業としてMetaを位置づけるPRを開始
- 「betting on people」と宣言する動画広告を投入した
- 6,500語のエッセイ:
- AIエージェントの作成をより使いやすくする計画を強調
- 名前を伏せた競合こそが真の雇用破壊者だと描いた
- 自社の立ち位置の主張:
- 業務の自動化を主眼とするのではなく、全製品を通じて何十億人にこの新技術の力を渡し、人々に力を与えることに注力する唯一の大手企業である
- 限定的な言葉遣いへの疑念:
- レイオフを語る際に「全社的」と「今年」という限定語を使い続けている
- チーム単位の削減や成績不良を理由とする解雇が続くと社員は推測している
- 全社的な人員削減が来年へ先送りされるだけだという見方もある
- 資金面の圧力:
- 目のくらむようなAI支出により、資金繰りの逼迫と投資家の監視に直面し、節約の圧力が高まっている
- 今年AIチップなどのインフラに最低1,300億ドルを投じる計画で、2026年の営業キャッシュを食い尽くすとアナリストは見込む
- 将来の雇用予測:
- エッセイ「The Future is for Everyone」で、将来は仕事が豊富に存在しうると予測
- 産業界の巨人からテック企業への移行時と同様、企業の規模は縮小しうる
- ただし仕事の総量が減るのではなく、少人数の企業がより多く存在する形になる