■ 1. FDEの定義と注目の背景
- FDEとは:
- Forward Deployed Engineerの略で、「前線配備エンジニア」と訳されることが多い
- 自社プロダクトの知見を持つエンジニアが顧客企業の現場に入り込む職種
- 課題の発見からシステムの設計・実装までを担う
- FDEの起源と広がり:
- AI基盤を手掛ける米Palantirが確立した職種
- OpenAIやAnthropicなどのAI開発企業、AIスタートアップ、大手SIerまでが体制を取り入れている
- 日本でもFDEの求人が目立つようになった
- 人月商売への逆風:
- 従来のIT業界は、開発の費用や工数をエンジニアの人数と作業時間から算出してきた
- AIで作業効率が上がれば、1案件に必要な人数も時間も圧縮できる
- その結果、人月商売が成り立たなくなる可能性がある
- アンソロピックショック:
- 2月初旬、Anthropicが自律型AIエージェント「Claude Cowork」の業務プラグインを発表した
- これを機に世界のソフトウェア企業やITサービス企業の株式が売られた
- 日本でも大手SIer、コンサルティング企業、開発支援会社の銘柄まで売られた
- 大手SIerの株価回復:
- 約7カ月後、日立の株価は9月28日終値で5518円とショック前の水準を上回った
- NECや富士通の株価も戻りつつある
- 回復の要因:
- 事業内容や外部環境の影響、高性能AIが人間を代替するのは杞憂だったという一服感もある
- 加えて、FDEモデルと日本の大手SIerには意外にも複数の共通点がある
- その共通点に“人月商売の死”を乗り越える鍵がある
■ 2. 国内大手SIerのFDE戦略
- 日立のFDE人材拡大:
- 国内のFDE人材を7月時点の約300人から年度末に約1000人へ拡大する
- 海外は約100人から約350人へ拡大する
- 2026年度第1四半期の決算資料に明記されている
- 富士通の取り組み:
- 6年にわたるPalantirとのパートナーシップでFDEの行動様式を学んだ
- FDE起点のビジネス創出で2030年度に約1500億円の売り上げを試算している
- フォーティエンスコンサルティングの取り組み:
- NTTデータグループの同社(旧クニエ)は6月に「FDE型コンサルティング」を打ち出した
- 5年後に100億円規模の売り上げを目指す
- 冷めた見方:
- 日本企業のいうFDEは、客先常駐で開発するSIやSESをイマ風に言い換えただけだという見方がある
■ 3. 常駐SEとFDEの線引き
- 線引きの基準:
- FDEとそうでない常駐SEを分ける基準は「自社プロダクトの有無」にある
- Palantirの製品構造:
- データ管理と業務アプリケーション開発の基盤「Foundry」
- 生成AIの基盤「AIP」
- それらを顧客環境に届け続ける配信基盤「Apollo」
- オントロジー:
- Palantirが「プラットフォームの心臓部」と呼ぶ中核要素
- データ、判断のロジック、実行する業務(アクション)を共通の表現にまとめるもの
- PalantirのFDEの開発方式:
- 顧客ごとに部品を一から作らず、共通化した土台の上に顧客の業務を載せる
- 顧客の要望を受けて土台上に作ったシステムは、そのまま製品改善の部品として再利用できる
- そのため、FDEの知見は個社カスタマイズにとどまらない
- 抽象化したFDEモデル:
- 「自社基盤へ顧客現場の知見を還流させることを前提とした開発人材の提供」と表現できる
- この形で捉えると、国内大手SIerとの共通点が見いだせる
■ 4. 国内SIerに見るFDE型の素地
- NRIの「THE STAR」:
- 総合証券バックオフィスシステムで、2024年5月にサービス開始から50周年を迎えた
- 野村證券のシステムを共同利用化し、系列会社9社に提供したことが始まり
- その後、システム利用料をもとに改修や運用を担う、今でいうSaaS型プラットフォームへ発展した
- 2024年時点で80社以上に導入され、国内の個人証券口座管理の約5割を担う
- 個社対応の資産化:
- 顧客が増えるたびに新機能を載せ、さらに投資して機能を拡充してきたという社員の証言がある
- 個社ごとの対応がプラットフォーム側の資産として蓄積されてきた
- 基盤刷新時の常駐支援:
- 2000年代の基盤刷新では、NRIスタッフが各社に張り付き、1年かけて徐々に移行を進めた
- NRIのPalantir的開発モデル:
- 証券業界に根差した共通の基幹システムを、顧客常駐と自社開発のハイブリッドで構築してきた
- これは実にPalantir的な開発モデルといえる
- 共同利用型:
- 基幹側と連携したシステム提供形態を、多くのSIerが「共同利用型」と呼ぶ
- 1回作ったものを複数社で使い、費用を広く割り当てる仕組み
- 金融や社会保険など、企業横断で同様の業務がある領域の基幹システムに広く張り巡らされている
- 共同利用型の事例:
- BIPROGYの勘定系システム「BankVision」は複数の地域銀行が採用している
- 日立の「NEXTBASE」やNTTデータの地銀共同センターは、地域銀行の勘定系を複数行で共同利用する
- カード決済網「CAFIS」や全銀システムの開発・運用もNTTデータが手掛けてきた
■ 5. FDEモデルと人月商売の分岐点
- 単純比較の限界:
- Palantirのビジネスと共同利用型SIは、目的や構造が異なるため一概に比較できない
- それでもFDE型ビジネスの素地があったなら、FDEという言葉が今浮上した意味が問われる
- FDEチームとなる条件:
- 客先で得た個社対応の成果が自社プラットフォームに積み上がる必要がある
- その成果が次の顧客に配られていくなら、エンジニア組織は単なる常駐SEではなくFDEチームとなり得る
- 人月モデルの言い換えにとどまる場合:
- 各社のFDEが、現場で個社対応のみをこなす人材の総称にとどまるなら、人月モデルの言い換えにすぎない
- プラットフォームを持たない会社の限界:
- 知見を取り込む基盤を持たず、稼働時間に応じた課金から脱却できない会社が該当する
- AIで生産性を100倍にしても、従来の100分の1の人月費用しか請求できない
- SIerが評価され続ける理由:
- 理由は「AIに強いから」だけではない
- 常駐して持ち帰ったものを自社の資産として積む場所を持っている
- それをさらなる成長の糧にできることが評価につながっている