■ 1. モデルのコモディティ化とコンテキストの重要性
- モデル性能議論の限界:
- AIの議論は「どのモデルが一番賢いか」に偏りがち
- モデル性能は重要だが、企業AI活用の本質はそれだけでは捉えられない
- モデルへのアクセスは競争優位になりにくい:
- モデルは今後ますます多くの企業が利用可能になる
- 自社が最新モデルを使えるなら、競合も同じモデルを使える
- 同じモデルでも価値に差が生まれる理由:
- 答えはコンテキスト(文脈)
- M4(マネジメントチェーン上位)のCharles Lamannaも、同一モデルでも結果を分けるのはコンテキストだと説明
- この一言に企業AIの本質のかなりの部分が詰まっている
■ 2. インテリジェンスとコンテキストの区別
- 価格提案書の例:
- AIはPowerPointを読み、価格の変更を認識できる
- しかし実際の仕事ではPowerPointが真実のすべてではない
- 資料の外にある情報:
- 値引きの議論はTeamsで行われている可能性がある
- 一定水準を超える場合は上司の承認が必要という条件があり得る
- 財務部門の承認状況は別システムにある可能性がある
- 顧客との前回会議では違う条件を話していた可能性がある
- 契約書にはさらに別の制約がある可能性がある
- 知能ではなく材料の問題:
- モデルを次世代版に変えても、知らされていないTeamsの会話を知ることはできない
- モデルに欠けているのは、仕事を理解するための材料
- 人間の場合も同様:
- 世界最高のコンサルタントでも、入社翌日では社歴20年の社員ほど会社の状況を理解していない
- 2つの「賢さ」:
- 世界について考える能力としてのインテリジェンス
- この会社、この人、この仕事を理解しているコンテキスト
- Work IQが扱うのは後者
■ 3. データではなく文脈の価値
- データ蓄積から一段先へ:
- 企業ITでは長らくデータ蓄積が重要とされてきた
- AI時代には、データの意味をAIが理解できる状態にする必要がある
- 1つの提案書に紐づく情報:
- バージョン履歴と、誰が編集したかという活動履歴
- 誰が開いたかという関係性
- 資料について話したTeamsの会話と関連する会議
- 顧客との過去のメールとCRMの商談情報
- 人間はこれらを無意識に結びつけている
- ワーキングセット:
- 「この資料」と聞けば、人は「昨日から作っていて今日レビューするあの資料」と理解する
- Work IQはこの「今取り組んでいるもの」をワーキングセットとして扱う
- 仕事は毎日変わるため、ワーキングセットも変わる
- メモリ:
- すべてが毎日リセットされては困る
- 「大きな価格変更には上司の承認が必要」のような仕事の進め方は次の仕事にも引き継ぐ必要がある
- Work IQの位置付け:
- 単なる「Microsoft 365 検索」ではない
- メール、予定、会議、チャット、ファイル、人、共同作業のパターン、業務システムなどの情報を継続的に処理する
- 組織がどう仕事をしているかを意味的に理解するインテリジェンス層
■ 4. 全部読ませる方式の限界とWork IQの工夫
- 全情報の投入は不可能:
- 典型的なFortune 500企業では、Microsoft 365内だけで600TB超のコンテキストが存在する
- 毎回プロンプトに入れることはできず、できても意味がない
- A社の価格提案の質問に、5年前の採用資料や無関係な部門の会議は不要
- コンテキストは多いほど良いわけではない:
- AIモデルにはコンテキストの上限がある
- 少なすぎれば重要な情報を落とす
- 多すぎれば不要な情報から答えを探すことになり、時間とトークンを消費する
- 本当の難しさ:
- 情報の検索ではなく、今この質問に答えるためにどの情報をどのくらい渡すかの判断
- 従来型エージェントのN+1問題:
- 他社AIプラットフォームが「Microsoft 365 コネクター」を謳っていても、検索や取得を何度も繰り返すことがある
- ファイル、最新版、コメント、Teamsスレッド、メール、会議を個別に探す
- 検索結果をさらに一件ずつ取得する
- モデル外でのコンテキスト組み立て:
- Work IQは必要な資料、編集内容、コメント、周辺の会話などをモデルの外側で集める
- モデルに必要な形に整えて渡す
- 評価結果:
- 20超の一般的な業務シナリオで、従来型API方式と比較した
- 回答生成のトークンを80%削減した
- 回答生成速度を約2倍にした
- 2つの別のエンジニアリング問題:
- AIモデルを賢くすることと、AIモデルを賢く使うことは別問題
■ 5. モデルの周りが価値を決める
- 価値の差を決める要因:
- 基盤モデルの性能差は残る
- しかし企業が得る価値の差は、モデル周囲のコンテキストの仕組みで決まるようになる
- 人材の比喩:
- 世界最高の頭脳でも、会社を知らなければ毎回説明が必要
- 顧客、組織、上司の考え方、過去の失敗を知る10年選手の方が、仕事によっては圧倒的に価値がある
- AIにも同じことが起こる
- 重要になる問い:
- 一番賢いモデルを呼べることだけでは足りない
- 必要なことだけを、必要な瞬間に、正しい権限で知ることができるかが重要
- モデルは共有できるが、コンテキストは共有できない:
- 競合は昨日あなたのチームで議論された内容を知らない
- 10年間積み重ねた顧客との会話を持っていない
- 誰が何を得意としているか、どの案件が重要かも知らない
- 仕事そのものが資産に:
- 企業が長年蓄積してきた仕事が、AI時代の新しい形の資産になる
- メール、Teams、PowerPoint、会議、SharePoint、OneDriveは仕事のためのアプリケーションだった
- AI時代にはそれらが組織のコンテキストを形成するシグナルにもなる
- 「仕事の副産物」が、AIの知能を組織固有のものにする材料になる
■ 6. Microsoft IQの構想
- Work IQはMicrosoft IQの一部:
- Microsoftはこの考え方をMicrosoft 365の中に閉じていない
- Microsoft IQは企業向けのインテリジェンス層として4領域を組み合わせる
- Work IQ:
- 人がどう働いているかを理解する
- 誰と働き、何を話し、どのファイルや会議を使い、どんな仕事をしているか
- 組織の「仕事の流れ」を扱う
- Fabric IQ:
- 現在のビジネスの状態を理解するためのコンテキスト
- 売上、在庫、顧客、商品、設備、KPIなどのデータを扱う
- 単なる行と列ではなく、企業固有の意味や関係性として扱う
- Foundry IQ:
- 組織が持つ知識を扱う
- 社内ポリシー、正式文書、ナレッジベース、自社固有システムなどに分散した知識が対象
- エージェントが再利用できる形にする
- Web IQ:
- Webページ、ニュース、画像、動画など、企業外の常に更新される情報をAIに与える
- 人間の仕事との対応:
- 社内で何が話されたかだけでは仕事はできない
- 現在の売上、会社の正式なルール、市場で今日起きていることも知る必要がある
- 4つの視点:
- Work IQ: 私たちはどのように仕事をしているのか
- Fabric IQ: ビジネスはいま、どのような状態なのか
- Foundry IQ: 組織は何を知っているのか
- Web IQ: 世界では何が起きているのか
■ 7. AI導入から組織理解へ
- 問われるのはAIの組織理解:
- モデルへのアクセスはやがてほぼすべての企業が持つ
- その先では、AIが自社をどれだけ理解しているかが問われる
- 理解すべき要素:
- 会社の人間関係と現在進んでいる仕事
- 会社固有のルールと社内の正式な知識
- 売上や在庫など今この瞬間のビジネスの状態
- 外の世界で起きていること
- チャットボットから仕事ができる知能へ:
- これらが揃って初めて、AIは物知りなチャットボットから企業内で仕事ができる知能へ変わる
- Microsoft IQの目標:
- Copilotやエージェントが共有できる、継続的に更新される組織理解を作ること
- この部分こそがAIの次の大きな競争
■ 8. 借りられない会社の文脈
- 希少なのはモデルではなくコンテキスト:
- より賢く速く安いモデルは次々に登場する
- 本当に希少なのは、その企業でしか生まれないコンテキスト
- 企業固有のコンテキストの例:
- 10年間の顧客との会話と何千回もの意思決定
- 社員同士の関係と積み重ねてきたノウハウ
- 現在のビジネスの状態と、その瞬間に世界で起きていること
- 数年後の価値の差:
- コンテキストをAIが理解できる形に変換できる企業がある
- 最新モデルのチャット画面を社員に配っただけの企業もある
- 同じ基盤モデルでも、両者が得る価値は数年後に大きく異なる
- 問うべき問いの変化:
- 「どのモデルを使っているか」だけを問う意味は薄れていく
- より重要なのは「そのモデルは自社について何を知っているか」
- さらに重要なのは「必要なときに必要なコンテキストを正しく理解できているか」
- モデルとMicrosoft IQの役割:
- モデルはインテリジェンスを提供する
- Microsoft IQは仕事、ビジネス、組織の知識、外の世界というコンテキストを与える
- 両者がつながって初めて、AIは自社にとって賢い存在になる
- 真の競争優位:
- モデルはコモディティ化しても、自社のコンテキストはコモディティ化しない
■ 9. コンテキストを活かす人材
- 伸びる会社の条件:
- AI時代に伸びるのは、これらを使いこなせる人材を育てた会社
- 価値を引き出すのは人:
- Work IQは仕事のコンテキストをAIにつなぐ強力な基盤
- 最終的に価値を引き出すのは、何を問い、どの文脈を重視するかを理解している人
- AIの答えをどう判断し、次の行動にどうつなげるかを理解している人
- 人材の厚みが競争優位を決める:
- 競争優位は技術だけでなく、コンテキストを武器にAIと協働できる人材の厚みで決まる
- Work IQやMicrosoft IQで意思決定の質と速度を高められる人材を増やせる企業が最も強く成長する