■ 1. 問題意識
- AIによる開発プロセスの変化:
- 実装は圧倒的に速くなり、計画のたたき台もAIがつくるようになった
- 見積りは不要、スプリントは短くてよいという話をよく聞くようになった
- 価値を速く届けることが大事であり、その流れには賛成
- 懸念:
- 見積りは、発生する作業をチームで理解する過程でもあった
- スプリントは、同じサイクルを繰り返しながら学ぶ場でもあった
- これらを軽くすると、メンバーが成長する機会も減るおそれがある
- 本稿の範囲:
- 見積りとスプリントにしぼり、AIを前提にしつつ人に学ぶ機会をどう残すかをマネージャーの立場から考える
- まだ答えは出ておらず、学ぶ機会を残すためのアイデアを3つ提示する
■ 2. AIで変わりはじめた開発プロセス
- メンバーからの相談:
- AI前提でスクラムがどう変わるか、見積りは不要ではないか、スプリント期間も影響を受けるのではないかと問われた
- 見積もる必要性は下がったので簡単にしてよく、スプリントも短くなるかなくなるかもしれないと答えた
- 担当チームの現状:
- 見積りやスプリントのやり方はまだ変えていない
- ベロシティはインフレ気味で、1スプリントでこなせるストーリーポイントが増え続けている
- そろそろ変えていくべきではないかと思うことが増えた
■ 3. 見積りとスプリントを軽くする流れへの賛成
- 社内外の動向:
- 社内にはTシャツサイズでの見積りや1日スプリントを試すチームがある
- AIで1スプリントのチケットが約2倍になり、プランニングやリファインメントを見直したチームの記事もある
- 社外でもAI時代にストーリーポイントやスプリントはまだ必要かという議論が出ている
- 見積りが意味を失いつつある理由:
- 数日かかっていた作業が数時間で終わるようになり、ポイントを付ける意味が問われる
- 数日かかっていた3ポイントの作業が数時間で終わり、ベロシティがインフレする
- AI自体が進化し続けるため、数字の根拠も変わり続ける
- 今後の予測にストーリーポイントを使うのは適切ではなくなりつつある
- スプリントが見直される理由:
- コードを書く時間が短くなり、検証や次の方向性の議論にスプリントレビューを待つ必要がなくなった
- スプリントで区切るより、リードタイムを短くするほうがよいという発想になる
- 期間の短縮や、スプリントをやめてカンバンにすることはそのためのアプローチ
- ベロシティを見てもよくわからなくなった感覚は自分にもあり、この流れに賛成
■ 4. 学ぶ機会としての見積りとスプリント
- 見積りで考えること:
- 何をつくるのかを理解する
- どういう設計で実現するとよいかを考える
- どんな作業を、どの粒度で、どう進めるかを決める
- ここまで考えてはじめて信頼できる数字が出せる
- 作業の流れをイメージする力:
- どこから手をつけ、どこでつまずきそうかを思い浮かべられるかが特に大事
- 例として、画面に項目を1つ足すだけでも複数の作業が並ぶ
- モデルの責務決定、API変更、画面修正、既存データ移行、テストなど
- その中でデータ移行あたりでつまずきそうだと見当をつけられて、数字に自信が持てる
- 数字そのものより、数字を出すまでに考えることのほうが大事
- チーム活動としての見積り:
- 1人では見落とす認識漏れやズレに、複数の観点から気づきやすくなる
- 反復練習の場としてのスプリント:
- プランニング、開発、レビュー、ふりかえりのサイクルが毎回必ず回ってくる
- 作業の流れをイメージする力は1回の見積りでは身につかず、繰り返すことで上達する
- 学ぶ機会が予定に組み込まれており、忙しくてもふりかえりの時間はやってくる
■ 5. 軽くすることで減る成長機会
- 見積りを軽くする影響:
- 作業の流れをイメージするために考える時間もいっしょに減るおそれがある
- AIは作業の分け方や順番をそれらしく並べたたき台をすぐ出し、非常に便利
- それをそのまま使うと、自分で作業の流れをイメージしないまま進めることになる
- 違和感に気づける人の育成:
- 経験者はAIの計画を見て自分の感覚との違いに気づける
- それは見積りで作業の流れをイメージする練習をしてきたからでもある
- 練習の場がなくなると、気づける人が育ちにくくなる
- スプリントを短くする影響:
- 1日スプリントでもふりかえる機会はなくならない
- ただし区切りが細かく、立ち止まらなくても回ってしまう
- 見積り時の違和感が当たっていたかなど、細部を考えないまま次に進みそう
- 結果として、学んだことが言葉にならないまま流れていく
- 特に影響を受けそうな人:
- 経験の少ないメンバー: これから作業の流れをイメージする練習を積む段階
- ドメイン知識を身につけたい人: 何をつくるのかをチームで理解する時間が減る
- 途中からチームに入った人: プロダクト特有の設計や実装の事情を知る機会が減る
- 速くなるのは歓迎だが、練習の機会が知らないうちに減るのは気になる
■ 6. 学ぶ機会を残す3つのアイデア
- 基本姿勢:
- 従来のやり方を守りたいわけではなく、AI前提の進め方になるのは自然な流れ
- そこに人が学ぶ機会をどう組み込むかが課題
- いずれのアイデアもまだ試せていない
- アイデア1: 認識あわせとしての見積り:
- 数字を出すためだけの見積りはやめてもよい
- 作業の流れを自分でイメージし、チームの認識のズレをなくす活動としては残す
- 作業の分け方と進め方は、担当者が自分の言葉でチームに説明する
- 自分の考えをAIに計画化させても、AIのたたき台から始めてもよい
- なぜその分け方にしたかを話せるかで、作業の流れをイメージできているかがわかる
- 聞く側にとってもドメインや設計の事情を知る機会になる
- AIが計画をつくれても、それでよいかを決めるのは現時点では人の仕事
- アイデア2: 経験の少ないメンバーによるAI計画のレビュー:
- 分け方は妥当か、抜けている作業はないかをチェックする役目を担わせる
- ゼロから考えるより、できたものから気になる点を探すほうがとっかかりやすい
- 人がつくった計画には言いにくいことも、AIの計画なら遠慮なく指摘できる
- 経験者もいっしょに見て気づきを話せば、経験を伝える場にもなる
- 見積りを軽くしても、作業の流れをイメージする練習を積める
- アイデア3: スプリントと切り離したふりかえり:
- スプリントを短くしても、カンバンにしても、ふりかえりは1週間程度の間隔で行う
- 価値を届ける活動は待たなくてよい
- ふりかえりはあえて間をあけ、学びや気になることがたまってから行う
- 何日か分をまとめて見ると、見積り時の違和感が当たっていたことなどに気づきやすい
■ 7. まとめ
- メンバーへの答えの更新:
- AI活用が進めば、見積りやスプリントはさらに簡略化していく
- ただしチームが学ぶ機会も減るおそれがあり、それを別の方法で担保することが大事
- スクラムと学習:
- スクラムはもともと学習を起点に考えられている
- やってみて、ふりかえって、次に活かすという流れを持つ
- 見積りやスプリントも、その学びを支える仕組みの1つ
- 残すべきもの:
- 残したいのは従来のやり方そのものではなく、チームの学ぶ機会
- やり方はどんどんアップデートしてよい
- その際、学ぶ機会も新しい形で再実装していくべき
- 今後:
- どのやり方が合うかはまだわからず、AIの進化で状況も変わる
- 成功も失敗も含めて試しながら、引き続き考えていく