■ 1. AIが奪ったもの
- 仕事ではなく権威を奪われた: AIは雇用を奪うのではなく、専門家としての判断の権威を奪っている
- 妻との議論での敗北: ドメイン名についての意見対立でAIに判断を委ねたところ、AIが妻の意見を支持し、筆者は即座に自分の判断を撤回した
- 真の問題: 妻が勝ったことではなく、筆者が人間の推論ではなくアルゴリズムに説得されたことに違和感を覚えた
■ 2. 誰もがプログラマーになった時代
- クライアントからのAI支援提案: 非開発者のクライアントがフローチャート付きの詳細な改善提案を送ってくる事例が日常化している
- もはや一時的現象ではない: ユーザーフィードバックの範囲を超え、「バージョン5.0で全て修正した」という態度の提案が1日に複数回届く
- 提案の質の問題: AI生成の提案は必ずしも悪くないが、コストやトレードオフの説明責任は専門家に残される
■ 3. 自己矛盾の自覚
- 日常的なAI使用: 筆者自身が50通以上のメール返信、コーディング、リサーチ、旅行計画、料理のレシピ調整などでAIを使用している
- 利便性の理解: AIは時間を節約し、あらゆる言語を話し、無限の忍耐力を持つ理想的な同僚のような存在である
- 他者を責められない立場: 自分も依存しているため、他人がAIに頼ることを非難できない
■ 4. 権威バイアスの心理学
- 自信が真実として認識される: 心理学における権威バイアスにより、自信を持って語る声を真実として扱う本能がある
- AIの完璧な自信: AIは決して躊躇せず、疑わず、「わからない」と言わないため、確実性のリズムで語る
- 危険な説得力: 悪い答えだけでなく、自信と統計で装飾された良さそうな答えが質問することを忘れさせる
- マルクス・アウレリウスの教え: 「聞くものすべては意見であり事実ではない。見るものすべては視点であり真実ではない」
■ 5. 専門家の岐路
- 全職業への影響: 医師、教師、弁護士、管理職など専門知識に依存していた全ての職業が同じ変化に直面している
- 仕事の本質の変化: 仕事は説得と交渉になり、AIが3秒で出す自信ある答えが3ヶ月、3人、3倍の予算を要する理由を説明し続ける日々である
- 知識の陳腐化: 知識も権威も希少ではなくなり、残された唯一の通貨は知恵、つまり疑いと判断の忍耐強い作業である
- 次世代への懸念: 経験自体が機械にアウトソースされれば、若い世代はどこで知恵を得るのかという問題がある
■ 6. 人間性を守る選択
- キャリアの再定義: プログラミングがまだ職業として存在するなら続けるが、AIに勝つためではなく疑い・文脈・判断という人間性を守るためである
- 判断の委譲への警戒: ドメイン名程度のことで判断を手放せるなら、より重大なことでも同様に手放してしまう危険性がある
- セネカの警告: 向かう先がわからなければ、どんな風も好ましくない。質問がなければ人間を人間たらしめる特性を失う
- 不完全な質問の価値: 完璧な答えに満ちた世界では、不完全な質問をする好奇心こそが最も人間的なものである