「チー牛」というネットミームをご存じだろうか。現在では、いわゆる「陰キャ」(陰気な性格、見た目の人)を揶揄したり、そういうキャラだとして自嘲するときに使われる言葉だが、もともとはイラスト発祥である。
「あのイラストを描いた当時は、率直に、たまたま描いた自分の顔がイモくさくて、ダサいものだったという塩梅がよかったなと自分では思っています。でも、現在の使われ方として良くないと思うのは、イラストを利用して特定の人たちを悪く言ったりすることですね。
あのイラストをマスコットキャラみたいに描いている人もいました。その絵については賛否両論もありましたが、あのキャラクター自体をおもちゃにしてもらう分には、そういう文化は昔からありますし、もう笑うしかないというところまで突き抜けたユーモアがあればいいなと思います」
たとえば、「チー牛」という言葉に対抗して、ネットでは一部の女性たちを「豚丼」と呼ぶ人たちもいる。
「それも悪意のある使い方ですよね。男性と女性、マジョリティとマイノリティ、どの立場でも関係なく、自分が不快に思う相手を攻撃するのは嫌ですね」
今や、いびりょさんのイラストはネットで見ない日はないほど、多くの人々が使い、また二次創作もおこなっている。作者として、どう思っているのだろうか。
「もうネットミームとして流通してしまった以上、全部を管理するのは不可能だと思います。だからこそ、楽しく、賢く、誰かを傷つけない形で"遊び倒して"もらえたらうれしいですね。イラストの使い方が過激化したときには、ガイドラインを作ろうかと考えたこともありました。でも今は、使う人の良識に任せたいというのが、最終の着地点です」
2008年にネットに投稿された男性の自画像が、時を経て、2020年代のインターネット文化に深く根づいている。いびりょさんの体験と言葉は、ともすれば言葉の暴力が横行するネット空間に大きな気づきを与えてくれるのではないだろうか。