受刑者や出所者を支援するNPO法人「マザーハウス」(東京都)の元理事長の男性が、支援対象の女性に性的暴行したとして準強制性交等罪に問われている裁判が6月18日、東京地裁で開かれ、検察官は懲役9年を求刑した。
弁護人は「同意があった」などとして無罪を主張。五十嵐弘志氏は最後に証言台の前で「更生保護をお手伝いする者として十分なことができなかったことは残念です」と声を震わせながら述べた。
これまでの裁判や報道によると、マザーハウスの理事長を務めていた五十嵐氏は2023年5月、支援していた女性に対し「悪霊がついているから清めなければいけない」などという趣旨の話をして性的暴行を加えた疑いがあるとして、警視庁に逮捕された。
五十嵐氏は過去に性犯罪などの事件を起こして服役したことがあり、刑務所を出所後の2012年にマザーハウスを立ち上げ、自身の体験を生かして受刑者の社会復帰を支援したり刑事施設の問題を広めたりする活動に取り組んでいた。
今回の事件は、別の事件で執行猶予付きの有罪判決を受けた女性をマザーハウスが支援する過程で起きたとされる。
2023年9月に初公判が開かれ、五十嵐氏側は検察官から十分な証拠が開示されていないことを理由に罪状認否を明かさなかった。
その後の公判で、五十嵐氏は女性と性行為をしたことは認めたものの、「同意があった」などと主張。
今年4月にあった被告人質問では、女性と性行為をした後に五十嵐氏が女性に「よこしまな霊から解放されますように」という内容のメールを送っていたことなどが明かされた。
また、被害者参加人の弁護士から「被害者の女性が苦しんでいる原因に思い当たることはないか?」と問われると、五十嵐氏は「お母さんとの関係だと僕は思っています」などと反論した。
検察官はこの日の論告で、「支援対象者で、精神疾患を有する女性に対する自己の影響力を用いた犯行」などと指摘。過去にも強姦など3つの事件を起こして計20年以上の懲役刑の前科があることに触れ、「再犯の恐れは大である」として懲役9年を求刑した。
被害者参加人の弁護士は、被害女性にとって五十嵐氏が「頼らざるを得ない存在だった」として、「可能な限り長期刑が科されるべきだ」とうったえた。
これに対して五十嵐氏の弁護人は、被害女性が警察官や検察官に話した内容が変遷しているなどと指摘し、「準強制性交等罪であることが十分証明されていない」と反論した。
最後に、被告人の五十嵐氏は伊藤ゆう子裁判長に促され証言台の前のイスに着席。身体拘束が長期間続いている影響からか、発言の冒頭から手や体を振るわせており、事前に用意していた紙を見ながら涙声で次のように述べた。
「Aさん(被害者)の心の声を十分に聞くことなく、更生支援計画を作成したことを反省しています。更生保護をお手伝いする者として十分なことができなかったことは残念です」